enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2012.12.19

 昨日、久しぶりに海を見ようと出かけた。海へと向かう一本道の大通りに電柱は無く、松と街燈が立ち並ぶだけだ。光を含んだ鉛色の雲が空いっぱいに広がり、葉を落とした冬樹が形をあらわにしている。写真を撮ろうと一本の樹を見上げてぐるぐる回っていると、私の名前を呼ぶ声がした。
 私の名を「~叔母さん」と呼ぶのは兄の娘達だけだ。振り向くと、車を降りて「叔母さん、何してるのぉ?「と駆けてくる姪の姿があった。姪夫婦が海岸道路から駅へと曲がったら、運転していた夫が「叔母さんだよ」と言うので、車を止めて声を掛けたのだという。
 姪は元気そうだった。幼い頃の面影をそのままのように残す姪。背が高くオリーヴのように細い身体を折り曲げるようにして、「忙しいけれど無理して休みを取ってもらったの。そうしないと身体がもたないから。私もストレスたまっちゃうし」と笑っている。「じゃ、お正月、楽しみにしてる」と車に戻っていった。
 お正月休み…子供のころ、本当に楽しみだった。親戚の大家族の家での御餅つきとかるた取り。「住の江の・・・」が私の得意札になっていた。幼い私のために、読み手は私の名前を読み込んでくれるのだった。そしてお年玉に駅伝。親戚の家は駅伝の選手たちの宿泊所で、いつも学生さん達がいっぱいで活気があった。
 他者が他者でなく、自分が何者であるかを考えたこともなかった時代。人生で一番満たされていた時代だったかもしれない。
 姪の顔を見て声を聴いたからだろうか。久しぶりの海は静かに昔語りをしているように感じられた。子供だったころ・・・家族にかこまれていたころ・・・と。寄せて返す波の泡沫が砂浜に花火のように広がっては消えていった。
 
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