六月の夜、白い花から重く甘い香りが地面へと降りてゆく。そして闇の奥に静かに沈んでいる。そこに昼間のわずかな熱を残した風が吹き込む。六月の夜の風に動かされ、花の香りはようやく垣根を抜けてゆく。
私はこれまで、そんなふうにクチナシの香りに出逢ったように思う。
過去の記憶の断片をよびさます濃厚な花の香り…月明りの道を歩くこともなくなった今、忘れていたなつかしい世界へと、ふと誘ってくれていた花は、ずいぶんと遠い存在になってしまった。
知人の畑に生ったスモモ…果肉には桃の香りと不思議な食感。花を見たいと思う。