enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

古い写真


 押入れの奥から見慣れない真四角のアルバムが出てきた。
 開くと、学生時代から入社間もない頃までの写真が、断片的に脈絡なく、つまりランダムに貼られている。
 白い縁のある紙焼きは一様に色褪せ、写っている人たちの笑顔だけが若く輝いている。
 
 貼られた写真の数は多くなかった。
 ある時期に思い立って、手もと(おそらく抽斗の中)にあった写真を寄せ集め、新しいアルバムに貼ったもののようだった。
 その後、新しいアルバムの存在を忘れてしまったのだろう、余った後半の頁には何も貼られていない。
 
 私自身が撮ったと分かる写真は16枚。
 すべて、40数年前に「山邊道」から室生を旅した時のものだった。
 16枚のうち、その場所の風景を確かに見た記憶があるものは、わずかに3枚。”鏡女王墓”と室生寺五重塔を写している。記憶の整理・蓄積ができない私が、その二つの風景の記憶を残しているのは、やはりその時、誰かに伝えたいほどに自分の心が大きく動いたからだったと思う。
 ただ、私の記憶の中で”鏡女王墓”を囲んでいた風景と、その古い写真の風景とは、ほとんど重なってはいなかった。
 記憶の中のその場所は、青い天蓋と緑の壁によって閉ざされたごく狭い空間だった。そして、風がそよとも動かず、時が止まったままのように感じたと思う。その場所について、そうした記憶が作られ、残っているのだ。
 
 写真のその場所は、今、どのような風景に変わっているのだろう。もう一度、その場所に立ってみたい。古い写真が新しい希望を呼び覚ましてくれた。いつの日か、再び、”鏡女王墓”を訪ねてみようという希望だ。

40数年前の”鏡女王墓”①
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40数年前の”鏡女王墓”②
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