朝、ベランダに出ると、きらきらした光が眼に入った。
季節が一歩進んだと思った。
届け物を持って、海に近い次兄の家に向かう。
じきに初夏へとつながってゆく陽射しのなかを歩いた。
手術して曇りのない視界を取り戻した眼が、行く先々のサクラと出逢う。
雨にも負けず、風にも負けず、サクラたちは満開の姿をとどめていた。
季節を楽しむ。気ままに歩く。
そんな時間に疚しさがある。いつからだろう。
自分だけ、日常の安全な場所にいるような疚しさ。
次兄に届け物を渡し、しばらく他愛のない話をした。
別々の暮らしを歩み始めてから、半世紀近くになる兄と私の会話。
次兄は、私が帰ろうとして道に出ると、「気をつけて帰ってね」と声を掛けた。
子どもの頃から、ずっと優しいままの兄なのだった。
満開のサクラ
近所のネコ…立派なヒゲだね。