enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

上野の長い一日

 25日、朝から上野に向かった。
 今日一日、イメージするとおりに過ごせるのか、気にしていた。
 不安の一つは、『フェルメール展』の混み具合。
 もう一つは、絵を観終わったあとで、夜の『椿姫』を聴く余力が残っているか見通せない不安。

 でも、そんな心配は無用だった。
 願ったとおりの時間帯のチケットを買えた。目で追いかけてゆくほどの行列も私には短く見えた。人々に射す陽の光は温かかった。
 展示室には色艶の美しい絵がゆったりと並んでいた。反射鏡のような保護ガラスも無かった。展示説明は壁紙に文字が浮きあがるだけの慎ましさだった。
 人波に急きたてられることもなかった。ヘラルト・ファン・ホントホルストという画家とフェルメールとでは、真珠の光の色合い、輝きの表現がずいぶんと違うことにも気がついた。
 美術館の外に出て、夜までの長い時間は読書で過ごした。頭痛も無い。呼吸も問題無かった。

 『椿姫』…いったい何回観たことだろう。ヴィオレッタの歌い手は違っても、観るたびに泣いてしまう。
 演出は、フェルメール展の色彩の余韻が蘇るように美しく、光と闇の構成が巧みだった。
 楽しみにしていたアルフレードの西村さんは不調だったけれど、私の長い一日は、ふりかえれば、幸せな時間としてあっという間に過ぎてしまったのだった。


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入り口近くの看板(フェルメール:『ワイングラス』)…何度見ても、グラスが顔を覆いつくしているのが息苦しそうで不安になる。

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『椿姫』のポスター

十数年前に撮った『真珠の耳飾りの少女青いターバンの少女)』:私にとって忘れられない写真になった。
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