enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

♫ Fascination ♫ のオルゴール

 

 

日中はエアコンをつけずに暮らす2020年夏。

頭が茹で上がった状態で、友人とメールでやり取りする。「熱中症が心配。昼間もエアコンつけたほうが…」と諭される。

『確かに…』と思う。
まともな暮らし方ではないのかも…。
最近では節電要請も出なくなっているのだし…。
それでも、一日中家にいながら、エアコンの快適さに浸ることが疚しい。
つい、『このまま我慢しよう…』と、無意味な”修行”を続けている。

こうして、毎日、身体や頭が茹で上がり続けていると、心も陽炎のように揺らめき始める。

扇風機と南風の熱風が渦巻く床で寝ころび、遠い昔のあれやこれやをぼんやりと、脈絡なく思い浮かべる。

時には、ムックリと起き上がり、記憶の不確かな形をネット上でなぞったりする。

そんな遠い昔の思い出の一つが、♫ Fascination ♫ という曲のオルゴールだった。
1984年4月、カプリ島でそのオルゴールを買った。お店のオルゴールをいくつか手に取って曲を聴いた。そのなかで、一番耳に懐かしかったのが ♫ Fascination ♫ のオルゴールだった。お店の若い女性の溌溂とした明るさにも心惹かれた。帰ってから、そのオルゴールのネジを巻き、♫ Fascination ♫ の響きが繰り返されると、忘れていた思い出が輝いて甦った。)

 

久しぶりにそのオルゴールを聴いてみた。
 ♫ Fascination ♫ という曲について、ネットで調べてみる。

 ♫ Fascination ♫ は、映画『昼下がりの情事』の中で流れる曲で、「魅惑のワルツ」と呼ばれるものだった。

ジェーン・モーガンという歌手が歌う動画を見つけ、何度も繰り返し聴く。

https://www.youtube.com/watch?v=kX-NN443ODk&list=FLfQ-6SOemR-qYp556uVSgfQ&index=87

懐かしい時間が緩やかに流れる。

その2分23秒の時間に、2020年夏の猛暑やコロナ禍が入り込む隙間はなかった。
その旋律の流れに乗って、遠い場所へと運ばれる。

そこは懐かしく、輝く場所。
私の残りの人生の時間のなかには見つけられそうもない場所。

亡くなった母も、こんなふうに、古いオルゴールの蓋を開け、自身の懐かしい場所を確かめるように、晩年の内面の時間を生きていたのかもしれない…そんなことも思った。

 

 

f:id:vgeruda:20200818123111j:plain♫Fascination♫ のオルゴール:
遠くの国からはるばると持ち帰ったつもりだったけれど、中のオルゴールは日本製だった。また、底に貼られたラベルの曲名は「Fastination」の綴りだった。そんなことも、懐かしい思い出なのだった。

 

f:id:vgeruda:20200818123131j:plainオルゴールを買ったお店で(1984年4月 カプリ島):ジブリのアニメに出てくるような…。