ガックリと肩を落とす…そのメールを読んだあと、ちょうどそんな感じになった。
そのメールは、4月末の歌舞伎座公演を中止するという知らせだった。
3度目の緊急事態宣言の火の粉が私の頭上にも降りかかったのだった。
延々とくすぶり続けるコロナ禍暮らしを補って余りある時間になるはずだった。
若い頃に密かに味わった歌舞伎の妖しい蜜の味を、もう一度なぞるはずだった。
天にものぼるような気持ちでチケットを手にしたのだった。
カレンダーに、その貴重な予定をいそいそと書き込んだのだった。
そのチケットこそ、玉三郎と孝夫(今は仁左衛門さんだけれど)による『桜姫東文章』。
若かった頃、海老蔵と玉三郎が絡み合う『鳴神』の妖しさにおののいたように、玉三郎と孝夫の『桜姫東文章』も、きっと同じようであるに違いないと想像した。
過去の時間の魔力に導かれるように、その日を指折り数えて待っていた。
それなのに、その日は、突然に、儚く消えてしまった。
今はまだ強い未練にとらわれたままだ。
あるべき時間、手にするはずだった時間は、どこにも見当たらない。別の時間を探し出せたら、埋め合わせできるのだろうか。
朝日・読売両紙の劇評の切り抜き。そして紙切れに変じた夢幻のチケット。