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私の第三十四夜をつづります。

八俵山から湘南平へ

 

25日、友人と朝から大磯に向かった。

コロナ禍で2年以上も外出を控えてきた友人と、股関節廻りの筋肉に不安のある私。
後期・前期の高齢者がゆっくりと秋の山道を楽しむには、高麗山はうってつけだ(あの風が吹き渡る尾根道、木洩れ陽が射す林…思い描くだけで心が飛び立ってゆく)。

2年ぶりの足慣らしをする友人の負担にならないように、高麗山まではバスに乗ることにした(「高麗山」を私たちは「こうらいさん」と呼ぶけれど、正式?には「こまやま」と読むようだ)

バス停で降りて、眼の前の茅葺屋根の民家をひとしきり眺めたあと、高来神社への参道に入る(こちらは「たかく神社」と読む。やはり私たちには呼び慣れない呼称だ。といっても、地元の「高久(たかく)パン」のほうは呼び慣れている)。

すぐ右手に慶覚院があらわれる。十数年ぶりに訪れた友人は、初めて目にする改修後の新しい姿に驚く。まずは慶覚院を拝さなくては…すると、境内には落ち葉を掃き清めるお二人の姿があった。
私たちがお参りを終えると、箒の手を休めたお二人から声を掛けられた。そして、高来神社の神像群などの話題に及んだところで、お二人は私たちに慶覚院本堂の拝観を勧めてくださった。

こんなこともあるのだろうか…思いがけず私たちは、八俵山に登る前に慶覚院本堂にお邪魔して、ご住職からさまざまなお話をうかがうことになったのだった。

もちろん私たちにとって、本堂の拝観は初めてのことだった。
そして、その本堂の内側に展開していたのは、かつて存在した高麗寺の全容を偲ばせる”立体曼荼羅”の世界であり、長い長い時間を折りたたんだ歴史屏風のような空間だった。

なかでも、若々しく強い光をもった瞳の地蔵菩薩坐像の大きさに驚かされた。そして、なぜ、これほどにエネルギッシュな若者の姿で表されたのだろうと思った。

堂内には、この格別に大きなお地蔵様とともに、お厨子の中の千手観音像、さらには毘沙門天像・白山大権現像・不動明王像などが所狭しとお守りされている。
まさに”立体曼荼羅”のごとくに、旧高麗寺の往年の姿を凝縮した形で今に伝えているのだった。また、その空間からは、これらの仏様を守り続けた村人たちの思いも伝わってくるようだった。

こうして、堂内では様々な想念が駆け巡って、八俵山に登ることなど、すっかり忘れてしまうような時間を過ごした。随分と長居をしたあと、ご住職と境内のお二人にお礼をして慶覚院をあとにした。

さて、ありがたい仏様と偶然にも出会った夢見心地の気分を切り替えなくては…。

高来神社に参拝し、準備体操をして、私たちはようやく八俵山のなかへ入った。

仄暗い山道で見かけた花はヤブツバキ、実はアオキなど。ところどころで、モクレイシの灰色の木肌が眼に入る(名札がついているので、私にもそれと分かるのだ)。
八俵山のいつもの林では、ヤブランも黒光りする実を残していた。
鳥たちは、地鳴きやドラミングばかりで姿を見せてはくれなかった。

友人のコンディションも良く、八俵山から浅間山を経て、久しぶりに湘南平まで足を延ばすことになった。

のんびりと湘南平からの展望を楽しみ、さらにのんびりと大磯側に下る。その途中には横穴墓群の遺跡も残っていて、再び、思いがけず、古墳時代の空間に入り込むこととなった。

深い谷に沿って下り、大磯駅へとたどり着く。
ちょうど電車が来たこともあり、バスには乗らずに平塚に戻ることにした。
高齢者二人にとって、電車の座席は心地よく、一駅座るだけでは物足りなく感じられた…もっと乗っていたい…。日々是好日…。

 

境内の案内図:
慶覚院は「旧地蔵堂」、高来神社は「旧観音堂」、これから登る八俵山は「毘沙門塔跡」(「毘沙門堂跡」ではなくて?)と示されている。明治の廃仏毀釈が恨めしい…と思わないではいられない最盛期の高麗寺の景観。

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八俵山の”毘沙門堂”の説明板:
やはり、「毘沙門塔」は「毘沙門堂」で良いのだろうか? 
この地点の面積に限って言えば、あの毘沙門天像が祀られ
ていたお堂は、ごく小さなものだったのかもしれない。
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咲き残る花たち
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湘南平から①(西側):
平塚海岸から見るいつもの富士山は、本当は、こんなにも気持ちよく裾野を広げているのだった。f:id:vgeruda:20211126210621j:plain

湘南平から②(北側):
私は大山の形が好きだ。平塚から見て、大山はあそこになくてはならない、と思う。またいつか登ってみたい。f:id:vgeruda:20211126210636j:plain

湘南平から③(南東側):
真南には大島のごく淡い島影が浮かんでいた。
この角度から眺めると、いつもの観測塔が、実は大磯側にかしいでいることがと分かる。
茅ケ崎側の烏帽子岩に寄せる白波も見える。
広いなぁ…相模の海…。
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楊谷寺谷戸横穴墓群:
今まで名前を知るだけだった遺跡。
同じ高麗山でも、海を臨む釜口古墳に対し、横穴墓はどこか秘められた印象が漂う。
覇者としてのモニュメントではなく、あくまでも墓域としての立地なのだ。f:id:vgeruda:20211126210704j:plain


人魚姫の公園で:
いつものように薔薇たちに挨拶をしてから家に向かう。f:id:vgeruda:20211127115920j:plain