enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

梅雨の一日。

 

今日から数日、家事のルーティンからしばし解放される…少しだけホッとする一日が始まった。

午後になって、ベッドに横になってみる…蜂窩織炎の中心部に小さなしこりを残す左腕をうらめしく眺めながら。

ハッと目が覚めた。いつのまにか、すっかり眠り込んでいた。
あたりには土の匂い? 雨の音も?

うたた寝している間にどうやら天気が急変したようだった。
慌てて洗濯物を取り込む。
じきに、爆撃のような激しい雷鳴が建物までも揺るがしはじめた。

ウクライナの人々は、日々、こんなふうな爆撃の中を生きているのか…。

再び横になり、そのまま眠りに吸い込まれていった。
次に眼が覚めた時には携帯が鈍い音を響かせていた。

今朝出かけていった家族からだった。
伊東市の「池」という集落の谷戸の奥で、今日、アカショウビンの声を4度聴いたというのだった。心なしか弾んだ声だった。

『「池」で? すごいね…』
アカショウビンの啼き声が頭の中で響いた。

「池」の用水路の水面上を真っすぐに飛んでゆくカワセミを見たことはあったけれど、あの「池」にアカショウビンが立ち寄っているのだった。
(かつて、旅の途中で行き倒れになったアカショウビン平塚市西部で見つかったことなども思い出された。)

今のこの季節、アカショウビンたちが日本の空を渡っているのだなぁ…と嬉しくなった。

 

夕方になり、どうやら雨も上がったようだった。
外に出ると、梅雨らしい少しひんやりして、少ししっとりした空気が広がっていた。

いつものように人魚姫の公園に立ち寄ってみた。
『薔薇の季節は終わってしまったなぁ…』と眺め渡していると、ちっちゃな犬を連れた人に話しかけられた(そうあることではなかった…というより、めったにないことだった)。
「あの…あそこの角にベンチがあるでしょう? あのベンチの右のほう…」
(この時点で、私はその指さすあたりに咲いている百合のような黄色い花の名前を聞かれるのでは?と予想した。)

しかし、犬を連れたその人から、予期せぬ言葉が続いた。
「私、さっき、あのあたりを拭いたばかりなんですよ。だから…」

いつも、人の言葉や気持ちに対して呑み込みが悪い私でも、すぐ理解できた。驚きつつ、慌ててお礼を言って頭を下げる。その人は優しい表情を残して、子犬と一緒に公園を出てゆく。

虚を突かれたまま、引き寄せられるように教えてもらったベンチの方へ向かった。

確かに、そのベンチの右端は一人が座れるほどに雨が拭き取られていた。

それまで、まったくベンチに座ろうなどと思っていなかったのに、なぜか座りたくなった。

座ってみると、何となくホッとしたのも意外だった。
犬を連れた人は、海のほうへ向かう通りを遠ざかって行く。
その後ろ姿を目で追いながら、『私は、あの人のようにはなれないなぁ…』と思った。

青みがかった空を見上げる。
午後の激しい雷雨の名残りもなく、ほんわかと優しい色合いだった。
そんなふうな梅雨の一日。

 

6月12日の「人魚姫」