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私の第三十四夜をつづります。

メモ:「菅野名明」・「依智秦永時」について

 

10世紀の伊豆山において、承平7年(937)に法華堂を造立した「菅野名明」、安和2年(969)に常行堂・僧坊・西軒廊を造立して金身仏菩薩7躯を安置した「依智秦永時」について、遅ればせながら図書館で国司補任』続群書類従完成会 1990年)・『新国史大年表』国書刊行会 2007年)を確認した。

同時に、「菅野名明」のより詳しい経歴については、「『扶桑集』の詩人(四)」(後藤昭雄 『成城文藝』第255号 2021年)から引用させていただいた。
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~「菅野名明」について~ (国司補任 第三』・『新国史大年表』をもとに要約)

◆天慶5年(942):遠江介 外従五位下 菅野名明
             4月25日 叙従五位下

◆天慶9年(946):下総守 従五位下 菅名明 8月6日現任
        :8月6日 下総守菅名明に押領使を兼任させる

◆天暦4年(950):下総守 従五位下 藤原有行 2月20日現任
             前守 菅名明 

~「依智秦永時」について~ (国司補任 第三』・『新国史大年表』をもとに要約)

◆安和2年(969):伊豆守 依智秦永時 現任

        :伊豆守 依智秦永時、走湯山常行堂を建立

         丈六釈迦・文殊・普賢・四天王など七躯を安置

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【改めて確認したこと】

伊豆国の府吏である菅野名明が、937年に伊豆山で「法華堂」を造立したあと、942年に遠江介(外従五位下)、さらに従五位下に昇進して946年に下総守となるなど、10世紀の東国に確かな足跡を残していること。
なお、「『扶桑集』の詩人(四)」(後藤昭雄 『成城文藝』第255号 2021年)には、次の通り、詳細な経歴がまとめられている。
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「37 菅野名明 生没年未詳 大学寮に学び、延長二年(九二四)文章生となる。天慶五年(九四二)四月、遠江介として伊豆国の功課により従五位下に叙せられる。同九年、下総守に在任、押領使を兼ねる。天徳三年(九五九)には勘解由次官に在任。

文筆事績
延長二年(九二四)一二月、文章生試に「山明望松雪」の題で詩を賦す。(略)
天徳三年八月一六日、内裏詩合に参加する(略)

作品
和漢朗詠集』に一首が入集する。他に詩が『類聚句題抄』『新撰朗詠集』『擲金抄』に残る。」

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これまで、『走湯山縁起』に記録されている人物や事績については、”物語り”的な記録として、総じて不確実な印象を抱いていた。
しかし今回、この「菅野名明」の漢詩人・官僚としての背景〔小国・伊豆国の府吏(937年時点)⇒上国・遠江介(942年)⇒大国・下総守(946年)⇒勘解由使次官(959年)⇒長徳年間(995~999年に成立したとされる『扶桑集』に入集〕を知ったことで、『走湯山縁起』における10世紀代の記述について、以前より歴史的・立体的な奥行きを感じられるようになった。
 

また、『新国史大年表』による「依智秦永時」に関する記述から、969年の「金身仏菩薩七躯」の内訳も知ることができた(971年に造立された金泥塗りの「普賢文殊之檀像」から逆に類推しての内訳…丈六釈迦・文殊・普賢・四天王など七躯…なのだろうか?)

なお、この菅野名明が伊豆山で法華堂を造立した937年頃は、東国で平将門の乱が始まろうとする時期にあたる。まさに、10世紀の東国では僦馬の党が横行し、「足柄・碓氷等の関を渡すべき」時代に入っていた。
(10世紀前半の相模国においても、『扶桑集』の詩人の一人とされる「藤原博文」〔?~929〕が相模守となっている〔『大磯町史』では”926年以降か?”とされていることから、その最晩年に相模守となった可能性〕。)

 

〔付記〕

伊豆山男神立像「965年」造立説をもとに、その頃の相模国司についても、調べてみた。

『大磯町史』(資料編 古代・中世・近世(1))「第7章 相模の国司では、「961年頃か?」として「大中臣公節」の名が挙がっている。

一方、「伊勢の祭主・大神宮司と中臣氏」(阿部眞司 1997年 高知医科大学紀要)では、「大中臣公節」について、958年から3年間在任した伊勢祭主の職を停止され、丹後守に遷任されたことが示されている。

現時点の私としては、”大中臣公節 961年頃 相模守”の世界のほうに、より魅力を感じている。伊勢祭主の職にあった「大中臣公節」という人物ならば、伊豆山での神像造立の動きに関心を寄せたのではないだろうか?などと妄想できるので…。

猛暑のせいだろうか。まったく収拾がつかないメモになってしまった。

 

 

~暑さで呆然としながら(8月2日)~

ご近所の店先に咲くサボテンの花

 

図書館近くの並木道で休む蝉(8月2日)