秋というより、冬晴れの9日、 鶴見での講座の前に桜木町に向かった。
弁天橋を渡る。
波の群青色と澄んだ空の青色がまぶしく目に飛び込んでくる。
吹き抜ける風は肩も首もすくめるほどに寒い。
港街らしい建物を眺めながら大通りを進む。
見覚えのある店のたたずまいに、若かった頃の自分の姿がよみがえったりする。
さまざまな欲望や夢に突き動かされていた頃。
1980年、初めてパスポートを手にして胸躍らせる姿。
大桟橋に立ち、クィーン・エリザベスの白亜のような船体を見上げる姿。
県民ホールの暗い客席で、『魔笛』の斬新な舞台に釘付けになる姿。
そして今。
1980年の頃のままの窓口で、変わり果てた私が10年ぶりの真新しいパスポートを受け取る。
私にとって、きっと最後のパスポート。
懐かしさに誘われ、公園に立ち寄ってみる。
強い風に逆らって羽ばたくユリカモメ。
冬空の光に透き通る尾羽。
打ち寄せる波の冷たい飛沫。
中空にかかる淡く白い月。
私は何十年も年を取ったのだと分かった。
港街の天使
港に羽ばたくユリカモメ
港に浮かぶユリカモメ
11月9日の月