enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2016.11.10

 秋というより、冬晴れの9日、 鶴見での講座の前に桜木町に向かった。
 
 弁天橋を渡る。
 波の群青色と澄んだ空の青色がまぶしく目に飛び込んでくる。
 吹き抜ける風は肩も首もすくめるほどに寒い。
 
 港街らしい建物を眺めながら大通りを進む。
 見覚えのある店のたたずまいに、若かった頃の自分の姿がよみがえったりする。
 さまざまな欲望や夢に突き動かされていた頃。

 1980年、初めてパスポートを手にして胸躍らせる姿。
 大桟橋に立ち、クィーン・エリザベスの白亜のような船体を見上げる姿。
 県民ホールの暗い客席で、『魔笛』の斬新な舞台に釘付けになる姿。 
 
 そして今。
 1980年の頃のままの窓口で、変わり果てた私が10年ぶりの真新しいパスポートを受け取る。
 私にとって、きっと最後のパスポート。
 
 懐かしさに誘われ、公園に立ち寄ってみる。
 
 強い風に逆らって羽ばたくユリカモメ。
 冬空の光に透き通る尾羽。
 打ち寄せる波の冷たい飛沫。
 中空にかかる淡く白い月。 
 私は何十年も年を取ったのだと分かった。

港街の天使
イメージ 1

港に羽ばたくユリカモメ
イメージ 2

港に浮かぶユリカモメ
イメージ 3

11月9日の月
イメージ 4