enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2011-01-01から1年間の記事一覧

87.8-3

セガンティーニの静謐 夏の乾いた空気と強い陽射し 草原から木末へとわたる風 光がまぶしく 音さえも遠ざかる 時の流れがせきとめられたところから 何かが静かに溢れだしている それは光でもあり 無でもあるような この繰り返し訪れる無の記憶を 私はなつか…

87.8-2

ロワールの岸辺で 女神ディアナの白い狩り衣からこぼれた露は 青い流れとなって 緑の谷をめぐってゆく 蛇行する時の河をさかのぼる その果てから 貴方は何を運びくるのか すくう指から輝き落ちる その時の一滴 その青い流れ

87.8

夏の印象 夏のプロヴァンスでセザンヌの林檎を齧った 赤い果皮は艶やかに甘くはじけ 青い果肉をうるおした 向日葵はいっせいに黄色のヴァカンスを楽しみ いまだ幼い葡萄たちは緑のハンモックに隠れ 秋の夢を育てていた プロヴァンスの夏は短く その光は 白い…

87.6

たそがれて みじかき日 終はりぬ 夕風は 白き夾竹桃をなぶり むなしき心揺さぶりて 消えぬ あゝ 今日を生きて 今日を繰りかへす たそがれて むなしき問ひ 残光と薄闇のあはひにたゆたふ

87.5

落葉松の林のなか 若く強い足音が近づいてくる 夏の手前のゆるんだ空気を震わせ 私を追い抜こうと 一瞬 木漏れ陽をさえぎり 迷彩色の少年は通り過ぎる 落葉松の林のなか その確固とした幼い迷彩服は 樹々たちのまどろみを当惑させる かつて はるか ヴェトナ…

80冬

夜のクィーン・エリザベス 船底の窓という窓が プラネタリウムのように輝きはじめ オリオンの帆が港の空に高くあがった 暗い波が 光を散りばめ 潮の鼓動を伝えてくるのを 彼女は聴いている 六月は遠く 夜の香気は凍りついたままだ 朝 冬の花を摘んで 貴女の…