enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2012.12.6

 12月とはやはり特別な月だ。時間の流れが31日でせき止められているような焦燥感を感じる。家と図書館と海とを行き来しながら、『そんなことでいいのか』という自分の声が聞こえてくる。
 「世上乱逆追討耳ニ満ツト雖モ、之ヲ注セズ。紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ。」
 なんと鮮やかな言葉だろう。若く無傷でためらいがない。
 60年も生きると満身創痍だ。発する言葉・記す文字と、悔い・ためらいとは、常に背中合わせなのだ。
 
 それでも、愚考を続けることが自分にとって生きることなのだと思う。
 その愚考を重ねるためのコピーをとるついでに、海へと出かけた。海への道の両脇には細い松の木が並んでいて、このところ、その剪定が続いている。数が多いのでなかなか終わらない。刈り込まれた松葉の一房が歩道のところどころに落ちている。一つ、また一つと。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のペーパー・クリップを思い出す。私の場合は海にたどり着くだけなのだけれど。
 
 浜では強い西風が砂粒を吹き上げながら風紋を描いていた。海面には小さな白波が無数に立っている。白々と冬姿の富士山を見ようとしても、砂が痛くて立ち続けることもむずかしい。いつもの浜辺暮らしの猫の姿もない。
 海岸に出るまで、この激しい風は予想していなかった。帰り道、砂防林の松も風の動きに任せて頭をゆらゆらと揺らしていた。
 
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