今年の2月に初めて聴いた西村悟さんが、「
アルルの女」のアリアを歌うことを知り、7日の午後、
大井町まで出かけた。
音楽は時と不可分な芸術だと思う。楽譜のなかで静かに身をひそめている音の記号たちが、楽器や声によって再生されるや、私のまわりに生きた時が流れ出す。音楽が空間に流出し流動し満ちて終息する。秩序ある時の流れ。妙なる調和。私たちはその時空間に身を浸すだけでいい。
「
アルルの女」の”フェデリコの嘆き”は、これまでCDで
パヴァロッティのものを聴いただけだった。生でしかも日本人
テノールが歌う”フェデリコの嘆き”・・・私にとって初めての機会だ。
2月の時と同じように、やはり西村さんの声も歌心も並外れていると感じた。耳に残っている
パヴァロッティの圧倒的にのびやかな歌いまわしとは別に、西村さんのフェデリコは若く清らかで折り目正しい。「
リゴレット」の
マントヴァ公爵もやはり清らかだ。市原多朗さんと共通する清潔感なのかもしれない。いまだ市原さんの
リッカルドが耳に残っているうちに、西村さんが主役となる「仮面舞踏会」もぜひ聴いてみたいと思う。