enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2012.12.8

 今年の2月に初めて聴いた西村悟さんが、「アルルの女」のアリアを歌うことを知り、7日の午後、大井町まで出かけた。
 音楽は時と不可分な芸術だと思う。楽譜のなかで静かに身をひそめている音の記号たちが、楽器や声によって再生されるや、私のまわりに生きた時が流れ出す。音楽が空間に流出し流動し満ちて終息する。秩序ある時の流れ。妙なる調和。私たちはその時空間に身を浸すだけでいい。
 「アルルの女」の”フェデリコの嘆き”は、これまでCDでパヴァロッティのものを聴いただけだった。生でしかも日本人テノールが歌う”フェデリコの嘆き”・・・私にとって初めての機会だ。
 2月の時と同じように、やはり西村さんの声も歌心も並外れていると感じた。耳に残っているパヴァロッティの圧倒的にのびやかな歌いまわしとは別に、西村さんのフェデリコは若く清らかで折り目正しい。「リゴレット」のマントヴァ公爵もやはり清らかだ。市原多朗さんと共通する清潔感なのかもしれない。いまだ市原さんのリッカルドが耳に残っているうちに、西村さんが主役となる「仮面舞踏会」もぜひ聴いてみたいと思う。