enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2013.7.20

 七夕が過ぎた頃から平塚市博物館に通い続ける日が続いた。慌ただしい作業が終息して訪れる安らぎの時間帯。
 昨日の夕方、身体の疲れがそのまま心の軽さとイーヴンになっていた。外に出ると、西陽がわずかに衰え、石畳の並木道が斜光のなかに静まっている。
 この斜めの陽ざし…衰え、静まってゆく光がつくる空気感は、およそ”斜陽”の響きでは言い表せない。人々の一日の労働の終わりのためにつくられた、妙に明るくて時間の奥行きを感じさせる陽ざしだ。
 『この光の色は何という名前の色なんだろう…』
 駅前の道をぼんやり歩いていると、頭にタオルを巻き、赤く日焼けした顔を汗で光らせた男の人の姿が目の前にあった。一瞬、目があったように感じた。きっと、その人をくっきりと切り抜くような光…衰えていながら新鮮な光が、真っ先に目に飛び込んだのだろう。
 男の人は仕事道具を小さな四輪車の荷台に積み込みながら、明るく歌うようにこう独り言した。
 「あ~! やっとビールの時間になった!」
 一日が終息する時間帯。人々は古代の昔から、鮮やかな斜めの陽ざしにずっと安らいできたのだろうと共感した。
 
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(歩道橋の上から眺める、現代の地方官衙の建設風景。ここでも、一日一日の労働が形になって空高く堆積してゆく。今年の冬、雪で真っ白な富士山の姿は、この高層ビルの影に隠れて見えなくなっていることだろう。)