enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2013.7.29

 梅雨明け後の猛暑の後遺症だろうか。いつもの道を歩いていても、どうも体の重心が定まらない。アスファルトにつまづきそうになったりする。
 日曜日、「天城高原は涼しいよ」という誘いを受け、不安な体力のまま、伊豆に向かう電車に乗った。電車とバスを乗り継ぎ、標高1000m近くまで辿りつく。
 平坦な山道を200mほど登る・・・今日のノルマだ。市街の散歩のように、ビルの日陰を探すこともなく、地上1000mの空気は十分に涼しい。
 ガラガラの石が敷かれた車用の道に、山道の柔らかさはない。左手に矢筈山や大室山、一碧湖を望む登り道の途中で、元気な足取りの若者に出会った。彼の頭上には、蝶を捕らえる大きな白い網がはためいている。挨拶をかわす。
 「何か、いましたか?」
 「いや、まだ何も。蝶にはちょっと天気が良すぎるのかも。」
 若者は健康そうな肌をしていた。
 この日、私達が見かけたのはアサギマダラやスジグロ、ヒョウモン、黄色や黒のアゲハ達だった(蝶の名は、みな同行者の受け売りだ)。若者は、きっとそうした蝶を探しているのではなさそうだ。
 頂上に着いて、ゴルフ場や山崩れの広がる天城連山を眺める。
 大きなテレビ塔の下で昼食をとった。絶え間ないセミの声(コエゾゼミというらしい)。電線の見えない広い空。
 家に居れば昼食までの時間は”時”でさえもない。一歩外に出れば、見上げる空の下を、雲や風とともに、”時”が流れている。
 帰り道、再び、白い網の旗をひるがえす若者に出会った。もう一度たずねてみる。
 「何か、いましたか。」
 「ええ。ミドリシジミが。ずっと樹の上を見上げていて首が疲れました。」
 彼は三角形に折りたたまれた紙を開いて、その小さな蝶を見せてくれた。
 何と綺麗なエメラルド色だろう。金属のように光っている。
 私にはまだ蝶が生きているように見えた。
 紙の中のその蝶が気の毒にも感じ、それでいて、逃げて行ってしまうのではないか、とも思う。
 林を渡る風の音をなつかしく聴き、元気な若者とエメラルド色の小さな蝶を知って、人生の滓でよどみを増す心持ちがちょっと明るくなった。
イメージ 1
アサギマダラ
 
イメージ 2
イワガラミ?
 
イメージ 3