enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2015.3.18

 17日、雨上がりの朝。空気が潤い、そして温かい。
 高麗山に行ってみたくなった。 
 高来神社の裏手から、八俵山にすぐに通じる山道を選んだ。正午を知らせるチャイムが聞こえた。
 谷に入ると、途中から新しい路へと付け替えられていた。
 道脇のそこかしこにヤブツバキの花が落ちている。
 子供のころから身近な高麗山に、ヤブツバキの花の記憶など残っていない。
 眼が見たとしても、その時の心に届かなければ見ていないことと同じなのだろう。
 今日は、その鮮やかな花色が道標のように親しいものに感じられた。

 20分余りで八俵山に辿りつく。いつも中食をとる明るい林地に向かう。
 この林のなかで空を見上げ、木立ちに響く風の音や鳥のさえずりを聞く。
 そのために高麗山に登るのだと思う。
 
 突然、これまで高麗山で一度も眼にしたことのない光景が広がった。
 数十人もの人々が、一様に長大な望遠レンズのカメラを三脚に据え、林間地を囲んでいる。
 カメラを持たずに双眼鏡を当てている人もいる。話を聞くと、ヒレンジャクキレンジャクが下草のヤブランの実を食べにくるのを待ち構えている人々だった。
 
 数分後、二羽の鳥が林に舞い降りてきた。木のように林立していた人々がわずかにどよめく。シャッター音が続く。親しみのこもったつぶやきも聞こえる。
 飛び立つ小さな鳥影を追って 私もヤブランの茂みに眼を凝らす。初めてみるキレンジャクの姿だった。
 キレンジャクはしばらくすると、再び枝先に舞い上がり、人々の視線を一身に浴びながら悠然と毛づくろいなどを始める。

 中食をとった林間地では、白い小さな花が風に揺れていた。ヤマガラも鳴き声とともに姿を見せた。咲き残った梅の花にテングチョウが留まる。
 高麗山にはいつの季節も新鮮な風が吹いている。

桜の枝に留まるキレンジャク

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光いっぱいのモミジイチゴ