enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2016.6.2

 5月が終わった。
 爽やかな季節になってから、夜中に吸入薬を使うことが多くなった。再び、子どもの頃のように、夜は”発作をやり過ごす時間”になってゆくのかもしれない。

 1日、家を出て街へと向かった。
 近くの店の角に小さな女の子と若いお母さんが立っていた。たぶん、若いお母さんは携帯を見ていたのだと思う。少し離れていた小さな女の子は、最近歩き始めたばかり、と見えた。足をふんばり、両手で何か飲み物の入った大きなカップを抱え、ストローの先をくわえていた。くるりんとした巻き毛だった。
 『美味しそうに何を飲んでるのかな…』と思いながら通り過ぎようとして、女の子と眼があった。眼が明るく笑っていた。女の子は小さな右手をカップから離し、「びゃいびゃい?」と手のひらを左右に動かした…「バイバイ!」よりずっと幼いあいさつだった…。慌てて私もあいさつを返した。同じように小さく手を動かして。若いお母さんがおかしそうに小さく笑う声が聞こえた。
 あんなに小さな存在なのに…と思った。存在するだけで、そしてわずかな言葉を発するだけで、他者に隔てなく、あたたかな瞬間を与えてしまう。その力の素晴らしさを思った。人間の力にはこんな力もあるのだと。


三日間、壁に留まったままのガ…「カクモンヒトリ」というガだろうか? ”ヒトリ”は”一人”ではなく、”火取り”の意味のようだ。少し怒った顔文字のような羽模様。小さな生きものは、こうした時間のなかで、何をやり過ごしているのだろうか。
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