enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

活字の手触り

 そわそわと落ち着かない日々が続く。
 ”自分を形成していた形”が少しずつ壊れていくという、漠然とした、しかも確かなことであるような怖れ。
 
 旅に出かける前から、ずいぶんとあてどなかった。
 帰ってから、いよいよ本物になってゆく不安。
 眼の前の持間を何とか繕わなくては、という焦り。
 
 『現代政治の思想と行動』…そんな本があることを、ネット空間のなかで知った。
 その本が図書館にあった。
 窓口で本を受け取ると、予想より分厚く重たかった。
 
 弱気になりながら頁を開くと、いつもの手触りと違った。
 どこか豊かな、なつかしいような感触だった。
 活版印刷なのだ、と思った。
 奥付を見ると第1刷は1964年、1992年第145刷の増補版とされていた。
 すごいな、四半世紀前で145刷なのだ。読まないうちから圧倒された。

 「現代における態度決定」…”現代”というところに惹かれて、まず読み始めてみた。
 それは偶然にも講演記録であるらしかった。
 指ではっきり感じる活版の凹凸。活字の隅の小さなインク汚れ。
 その凹凸や汚れと同じような存在感をもって、人間の思索する声、その語りを、その場の聴衆として聴くことができた。

 ずっと遥かに遠い存在だとばかり思っていた人の文章。
 自分の不安や虚脱感がどうなるのかは分からないけれど、今できることは、その人の文章を、少しずつ読み進めることなのだと思う。

”あなたはどうですか”という問い(「ある自由主義者への手紙」から)
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