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私の第三十四夜をつづります。

『ルバイヤット』

 私の小さな住所録の見返しには、伊東静雄の詩集『夏花』から書き写した詩文がメモされている。
(新しい住所録に換えると、同じようにその詩文を書き写してきた。)
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おほかたの親しき友は、「時」と「さだめ」の
さか つくり搾り出だしし 一いち の酒。見よその彼等
酌み交す 円居まどゐ の 杯つき のひとめぐり、将たふためぐり、
さても音なくつぎつぎに憩ひにすべりおもむきぬ。

友ら去りにしこの部屋に、今夏花の
新よそほひや、楽しみてさざめく我等、
われらとて 地つち の 臥所ふしど の下びにしづみ
おのが身を臥所とすらめ、誰がために。
森亮氏訳「ルバイヤツト」より
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 伊東静雄の詩集『夏花』の巻頭に置かれた訳詩文の原典であるらしい『ルバイヤット』。
 『ルバイヤット』とは何か?
 ―11世紀のペルシアの詩集。四行詩の詩集。作者はウマル・ハイヤーム―
 遠い国の遠い時代の詩集であることを、ずっとあとになって知った。
 とても不思議に思う。
 伊東静雄は、『ルバイヤット』の訳詩集からこの詩文を選び、『夏花』のエピグラフとした。
 (そもそも、彼の詩集の名を『夏花』としたのだった…)
 
 この文語による訳詩文の心地よさに、20代半ばだった私は強く惹かれた。
 そして、忘れたくなかったので、住所録の小さな手帳に書き写したのだ。
 その後、書き写すたびに、伊東静雄の詩に惹かれていた頃の自分を遠いもののように思い出したりした。

 それから40年以上の時間を経て、初めて『ルバイヤット』についてもう少し知っておきたいと思うようになった。
 そして、『ルバイヤット』の訳詩集を探し、文語訳と口語訳の二つの詩集を古書店から取り寄せた。
 本が届くと、胸が高鳴った。『ようやく…』と、そんな気持ちになった。
 私の小さな住所録はまるで”舞踏会の手帖”だった…そんな気がした。

『ルバイヤット』訳詩集(文語訳と口語訳)
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『ルバイヤット』 -第二十一歌- (文語訳)
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『ルバイヤット』 -第二十二歌- (文語訳)
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