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私の第三十四夜をつづります。

カンボジア国立博物館の”千手観音像”

 バンテアイ・チュマールの”千手観音像”のレリーフに、なぜ強く惹かれたのか?
 一つには、日本の千手観音像へと行き着いた信仰の流れを遡れば、どこかで、クメールの”千手観音像”の流れと出会う…そういう近しさを感じるからだろうか。
 もう一つは、私の妄想癖…夢と現実がどこかで入り混じってしまい、記憶を作り変えてしまう傾向…のために、この”千手観音像”にこだわったのかもしれない。
 
 今回、バンテアイ・チュマールの”千手観音像”を拝した時、『これは、あの、腕を孔雀のように広げた繊細なレリーフ”と同じ…』と思った。
 私の記憶(夢?)では、それは「まぐさ石(リンテル)」ほどの大きさで、遺跡内の草の生えた地面に立てた形で置かれていた。
 ガイドさんは、そのレリーフを「まるで、動き続ける腕を連続して撮影したような(つまり、”モーション・ショットのような)…」という説明をし、私も『本当にそうだ…』と感じ、その美しいレリーフにカメラを向けた…はずだ。
 
 そこで、『あのレリーフがあった遺跡はどこだったろう?…』と、過去の写真ファイルのなかを探し始めた。遺跡が多く、同じようなレリーフがありそうな国…ベトナム? トルコ? ギリシア? モロッコ?…のファイルのどこを探しても、撮ったはずの写真は見つからなかった。
(”幻の写真”を探す私に、「これのこと?」と家族に示された1枚【下の写真】は、確かに、腕も顔もモーションショットのようではあるけれど、野外の地面に立てられていないし、両腕を扇形に広げた正面像ではなく、天に向けて飛び立つ半人半鳥像のように見える。)

レリーフベトナム‐ミーソン遺跡‐C群:ミーソン遺跡の宝物庫で 2009年4月撮影)
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 私の記憶は消えやすいだけではなく捏造されやすい。
 ”幻の写真”を探すことはあきらめ、現に実在するレリーフの写真2枚を追加しておこうと思う。
 プノンペンの国立博物館では、バンテアイ・チュマールの”千手観音像”のレリーフ(2体)が展示されている。
 その2体は一つの壁面に左右並ぶ形で描かれている。
 遺跡の3体がそれぞれ22本、32本、16本で多面【註】であったのに対し、博物館の2体は、向かって左は10本、右が6本で、それぞれ1面となっている。腕の数も少なく、両者とも1面という点に、遺跡の3体との性格の違いを感じてしまう。

 【註】遺跡で3体が並ぶなかで、左側の像(22本の腕を持ち、顔は失われている)は、頭頂部の上方に小さな仏様の顔が描かれているように見えるので、”多面”と推定。】


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2体並ぶ”千手観音像”の左側の像(バンテアイ・チュマール プノンペンカンボジア国立博物館所蔵):_
全ての手に持物が握られている。蛇(?)のようなものが、頭上からだけでなく、両腕からも垂下している点も、遺跡に残る像と異なる。

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2体並ぶ”千手観音像”の右側の像(バンテアイ・チュマール プノンペンカンボジア国立博物館所蔵):
像の背景部分は、像の頭頂部を目指す魚群のように、夥しい数の小仏が動的に配されている。光背の図案と化したような円形の小仏群のデザインが斬新だ。