絵のない絵本
私が冷たい星くずになって
ふるさとの星に別れを告げようとしたとき
黒く波打つ海に光の砂の島が浮かんでいたのだった。
私は眼を凝らした。
なつかしい胸さわぎがして。
そして三日月の形に光る島の岸辺に
忘れがたいひとの影をとらえた。
六月の夜の重い風がゆらめいて
親しんだあたたかな形がたちあらわれた。
私は”やぁ!”と声をかけずにはいられなかった。
あたたかなひとは ふと立ちどまる。
”あなたを忘れない”
私はふたたび やわらかな六月の闇のなかに滑り込んだ。