いつからか、六月を特別な季節として感じるようになっていた。亜熱帯めいた湿り気。垣根から漂う濃密な花の匂い。
20代から30代の終わりまで、ひたすら家と会社を往復するだけの日々を繰り返していた。
一年のなかで六月だけは、闇にひたされて融けてゆくような解放感に包まれた。街灯もまばらな道を歩く時、梢の間から、雲間から、白い月が顔を出す。「ほととぎす」の歌そのままの世界だ(その頃はホトトギスの啼き声さえ知らなかった)。
そんな特別な六月が終わっていく。夜の空気が熱を帯びないまま。街角のどこにも白い花の香りがひそんでいなかった六月。六月ではないようなひと月が過ぎ去ってゆく。
~六月の白い花の代わりに~
海辺の花(2012年6月)
川辺の花(2012年6月)