enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2012.7.1

 湿った季節のなかに入ってゆくと、いつも思い出すアジアの映画がある。『青いパパイヤの香り』だ。
 観た映画のほとんどを忘れてしまっているのに、ふとした日常のなかで、それらの映画の断片がよみがえったりする。観終わってなお、心のどこかに痕跡を残す映画には、繰り返し観る映画と、もう一度だけ観てみたい映画とがある。
 何度も繰り返し観た映画は『ブリット』だった。
 もう一度だけ観たいというのは、その映画が自分の何かに係わった・・・その何かを確かめてみたいからなのだと思う。
 『青いパパイヤの香り』、『恋する惑星』、『ギルバート・グレイプ』、『シェルタリング・スカイ』、『トーチソング・トリロジー』・・・何の脈絡もなく浮かんでくる。子供の頃に観た『第三の男』や『自転車泥棒』、『地下鉄のザジ』も。学校行事の一環で生徒として観た『怪談』(小林正樹監督 1964年)も、造られた映像の美しさに心を捉われた映画だった。
 そして『シェルタリング・スカイ』は、自分の心臓が実際に傷ついたかのような、痛みの記憶だけが残っている(きっと感情の動揺が記憶を作り替えたのだ)。
 今、久しく新しい映画を観ない。もう一度観たい映画の数も増えない。
〔追記〕
このあと、TVで『千と千尋の神隠し』を観た。この映画も『ブリット』と同じく、何度も繰り返し観てきた映画だった。何度観ても、子供の頃には感じ取ることができた”現実の奥に隠れている別の世界”、怖かったり美しかったりする”ドキドキするもの”で溢れた世界…とうに忘れてしまっていた世界を一挙に鮮やかに思い出させてくれる映画だ。