enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2015.2.10

 昨日、外に出ると西の空には鉛色の雲が広がっていた。
 しかし、平塚の上空は明るく、陽ざしにあふれている。肌をさすように冷たい空気も、雪の降る寒さには届いていないようだった。
 3時ごろ、海に向かった。ウッドデッキを歩く人さえいない。風が強く、波頭が白く逆立っていた。富士は隠れ、大島の島影は淡い。
 それでも、逆光に輝く海面には黒い人影があった。今日の寒さなら、海水のほうがあたたかいのだろうか。
 絶え間なく波の音に包まれていると、自分の形が洗われていくように思えた。
 見上げる空は、雲の配置のために、気が遠くなりそうに広くて、不安を感じるほどだった。ふと、自分の足もとの砂丘が、アフリカの砂丘とだぶったように感じた。『シェルタリング・スカイ』のことを思い出したからだ。
 その映画の記憶は、突き刺すような痛みだけだ。映画に没入しながら、自分の傷口のようなものを感じたのだと思う。確かな痛みの記憶だけがずっと残った。存在の茫漠とした不安を、生身の傷の痛みとして共感したのだろうか。よく分からない。
 突然、飛行機のエンジン音が響いてきた。頭上の鉛色の機体を追いかける。いつになく、低く旋回を繰り返した。それは爆撃機ではなかったし、そこは戦闘地域でもなかったけれど、見上げる自分が砂粒ほどの存在のように感じた。

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2月9日の海

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旋回を繰り返し、去って行った自衛隊