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私の第三十四夜をつづります。

走湯参詣ルート2 『相模集全釈』281・284の歌

 『相模集全釈』(武内はる恵 林マリヤ 吉田ミスズ 風間書房 1991)より、引用させていただく。
 
【「さいはひ」の部】 
 281  御山まで かけくる波の 満ちひかば 世にあるかひも ひろめざらめや
 通釈 伊豆山まで波しぶきをかける満ち潮が退いたなら、海辺にある貝も必ず拾いましょう。
 
 
 284  御山なる 富草の花 つみにとて ゆるぎの袖を 振りいでてぞ来し
 通釈 権現様のまします伊豆山にある、富草の花を摘みに行こうと、険しいと聞いてためらわ      れる心をふり切って、こちらにお参りに出かけてきたのです。
 
【ヒント】
 281 
 伊豆山にまで駆け上るように、切り立つ山に迫り寄せる波の描写は、作者が伊豆山に向かうルートのなかで、実際に、そのような海岸線近くまで降りたつ経験をしたことを想定させる。
 
 284 
 「ゆるぎの袖」について、通釈では「ゆるぎ」は動揺すること、「袖」は「振り」を言い出すための語、とされている。
 私には、相模国府周辺に所在した「やど」から出立した作者が、「ゆるぎの袖」の語に、「余綾のふもと」という地点の意味を含めているように感じられる。
(大江公資の「たち」が所在する相模国府(平塚)の地をふり切って、余綾の浜から伊豆山に向かったのだ、と解釈することは許されるだろうか。)