enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

歌人相模が「竹淵」を目指した道(2)

≪想定外の道筋として歩いた「竹内峠」①≫

 今から約一千年前…おそらく万寿4年(1027)年頃…歌人相模は「神な月」に初瀬参詣を思い立った。そして、その旅のなかで次のような7首の歌を詠んだ。
_________________________________________

~ 初瀬参詣の連作7首 (『相模集全釈』から引用)~
     神な月 初瀬に詣づるに、稲荷の しものやしろにて みてぐら奉る
104 ことさらに 祈りをらむ 稲荷山 けふは絶えせぬ 杉と見るらむ 

     あとむら といふ所に宿りて、鹿鳴く

105 鹿のねに 草のいほりも 露けくて 枕ながるる あとむらの里 

     すがたの池にて

106 行く人の すがたの池の 影見れば 浅きぞ そこの しるしなりける 

     良因といふ寺にて、ふるの社のもみぢを見る

107 よしみねの 寺にきてこそ ちはやぶる ふるの社の もみぢをば見れ 
 
     楢の鳥居の前なる木どもに かけたるもの おほかり
108 なにならむ 楢のやしろの榊には ゆふとはみえぬ ものぞおほかる 
     
     まで着きて、坊の前に谷ふかく、もみぢおほかるを、「いづくぞ」と問へば、「鍋倉山」といふ
 109 春ならで いろもゆばかり こがるるは 鍋倉山の たき木なりけり 


     竹淵(たかふち)といふ所あり
 110 旅人は こぬ日ありとも たかふちの 山のきぎすは のどけからじな   

________________________________________ 


 今回の私の旅では、7首のうちの109の歌から110の歌への道のりに思いをめぐらした。
 109:「鍋倉山」(桜井市)から、110:「竹淵」(八尾市「竹渕」と想定)までの道のりについて、想定ルートを一つに絞り込む材料を探したかった。
 当初、机上で目論んでいたのは、「横大路」の途中から斜めに「田尻」を目指す最短ルートを歩いて確かめることだった(手持ちの資料図のなかでは、「葛下斜向道」というルートがそれに該当するように思えた)。
 しかし、いざ歩こうとした時、思いとは裏腹に、その最短ルートの手がかりがほとんど無かった。やむなく実際に歩くことができたのは、「竹内峠」越えで「長尾街道」へと向かう想定外の道筋となった。

〔見つからなかった最短ルートの手がかり〕
 ◆「葛下斜向道」の具体的な道筋の情報
  (机上では、近鉄大阪線大和八木駅」~「近鉄下田駅」のルート、あるいはJR桜井線「金橋駅」~和歌山線高田駅」~「香芝駅」のルートがそれに当たるのだろうか?)、
 ◆「長尾街道」(長尾神社付近~二上山東麓~田尻峠)の具体的な道筋の情報
  (階段状に示される”現代の長尾街道”よりは、国道165号線大和高田バイパスや近鉄南大阪線磐城駅」~「二上山駅」のルートが、本来の「長尾街道」のイメージに近いのだろうか?)
  註:「田尻峠」については、まだ良く理解できていない。
      現段階では、奈良県香芝市大阪府柏原市との境界付近の位置だろうか?との理解。
【 追記:このあと、香芝市柏原市境界は標高が60mほど(大和川支流の原川が流れる谷)と分かり、”峠”とはなりそうもないことが想像される。また、当初「穴虫西」の信号地点を「田尻峠」と理解していたが、ここは明治期以降に開削された峠であることも分かった。ますます謎が深くなる。】     

 こうして、今回実際に歩いた道筋は次のようなものとなった。

 ◇磐城駅~長尾神社~西光院(及び綿弓塚)~竹内峠(竹内街道)~鹿谷寺(ろくたんじ)跡~竹内街道歴史資料館~穴虫峠(太子道)~屯鶴峰(どんづるぼう)~「穴虫西」の信号地点(当初、この付近を「田尻峠」と理解していたのだが…)二上神社口駅

 そして、峠道を歩き、地図を繰り返し眺めながら強く感じたのは、現在の鉄道・道路が4本も並行して二上山北東麓に集結するようなこの状況そのものが、歌人相模が辿った道筋のあり方を示唆しているのではないか?という(都合の良い)思いだった。それは、「竹淵」を「八尾市竹渕」と想定し、結果的に想定外の道筋をたどったという、不十分な成果のなかの思いではあったけれど、歩き疲れた一日の代償として、私には十分な実感だった(「田尻峠」だけでなく、「関屋峠」など、大和から河内に至る道筋にはまだ多くの宿題が残る。いつか解決するだろうか)。

イメージ 1
長尾神社参道から二上山を望む(葛城市)

イメージ 2
竹内街道の起点となる長尾神社(葛城市)

イメージ 3
竹内街道のT字路に立つ道標(葛城市):当麻寺の方向に曲がれば”現代の長尾街道”へ。

イメージ 4
11cの地蔵菩薩像を伝える西光院(葛城市)

イメージ 8
水音豊かな竹内街道(葛城市):気持ちよい音を立て、急坂の水路を流れ下ってゆく。

イメージ 5
旅人を励ますようなお地蔵様(「岩角地蔵」:葛城市)

イメージ 6
竹内街道から南阪奈道路を望む(葛城市):人一人出会うことない山道へさしかかる。

イメージ 7
竹内峠の手前で国道と交差する地点(葛城市):鳥のさえずりと沢の音だけの世界から車道に出て、少しホッとする。