9日は冬晴れの空。高麗山に行きたいと思った。
山麓の高来神社では陽なたの落ち葉のなか、枯葉色の蝶が歩いていた。越冬するために、何か冬支度をするでもなさそうだ。ちょっとうらやましい。翅を広げると意外な紫色を背に載せていた。
山道には夥しい木の実、落ち葉、時々ヤブツバキの花。落ち葉の堆積のなつかしい匂いを肺いっぱいに吸い込む。ジッ、ジッとウグイスの声。ガビチョウ(?)の陽気な即興のさえずり。小暗い林も、鳥たちのおかげで明るくなる。
山は清々しく手入れされていた。
尾根道の木立ちの間に覗く、まばゆく光る相模湾。夏には見られない眺めだ。
浅い緑に紅や黄の華やいだ色彩が織り込まれた林のなかにすわる。鳥たちはどこに行ってしまったのだろう…。
風もない空から、ゆっくりと葉が舞い降りてくる。葉の着地音が小さく、しっかりと響く。静けさを際立たせて。そういえば、あたりには人の姿も無いのだった。
高麗山で私は季節とともに休息する。そこには、いくつもの季節がある。いくつもの休息がある。
八俵山からの相模湾
八俵山の木々
紫色の実
軽やかな紅葉
山道の陽射し
【野坂昭如さんが9日に亡くなったことを知った。私は二十歳になったかならないかの頃、野坂さんにファンレターを出した。ピーター・フォンダの『イージー・ライダー』を観た頃だった。「日本のピーター・フォンダ様…」と、トンチンカンな言葉で書き出したことを良く覚えている。なぜ、投函できたのだろう。「若かった」のだ。(遠い世界の人にファンレターというものを出したのはこれが初めてだったし、最後だった。もちろん、返事は来なかった。)なつかしいです。さびしいです。野坂さん、さようなら。】