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私の第三十四夜をつづります。

「サツキ」ちゃん、そして図書館。

 

7月最後の日、朝から図書館に向かった。
なぜか、街中の裏通りではなく、大通りを選んだ。交差点の歩道橋を昇り降りして八幡様の下にさしかかると、突然、頭の上から人の声がした。日傘を傾け、八幡様の石垣を見上げると、囲われた斜面に小さな馬の姿があった。
一瞬驚いたけれど、すぐに八幡様の神馬?と分かった。小さな神馬は、その場所から移動するよう、手綱を引かれ、声を掛けられても、一向に動こうとしない。その場所で好きなように草を食べていたいのかな?

「名前はあるんですか?」頭上の人に尋ねてみた。

「サツキ!」と返ってきた。

きっと五月生まれなんだろうな…思いがけない出会いで足元がちょっと軽くなった。

図書館に着き、3階に向かう。途中、踊り場の壁に貼ってあるポスターが目に入った。そのポスターには「土馬」の姿があった。今日は何だかお馬さん続きだな…と思って初めて気がついた。

そもそも、朝から図書館にやって来たのも、その「馬」が目的だった。

最近、急に思い立って、相模国府域とその周辺の遺跡で「馬歯」・「馬骨」を出土する地点を調べ始めていた。最初はとても楽しかった。調べることで、何か分かることがあるかもしれない…いつもの妄想で心が浮き立った。

しかし、家じゅうの報告書や資料を探しながら、ある時点で、ふと急に虚しさに襲われた。結局、中途半端な結果に終わりそうな予感がやってきたのだ。『やっぱり私の能力ではこんなことも無理なのか…』と気力がしぼんでいった。

それでも、何とか今の私に可能なところまで調べておこう、暑くならないうちに図書館に行って新しい報告書を見ておこうと出かけてきたのだった。

その図書館の3階の空間に自分を置く。
私の気まぐれと思いつきで始めた作業が行き着いた虚しさが消えたわけではない。しかし、何よりもこの空間に身を置くだけでちょっとだけ励まされ、心が落ち着くように感じた。

そして、この空間で満たされている人はたぶん私だけではないはず…何となく、いつも、そう感じている。

 

f:id:vgeruda:20210802001248j:plain八幡様の「サツキ」ちゃん

 

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鎌倉で出土した「土馬」の写真
(鎌倉歴史文化交流 企画展「発掘調査速報展2021」のポスターから)