思いきって東京に向かった。
上野に着くと、ほどよい人出でホッとする。
久しぶりに歩く公園。 カフェが増えている。
深かった森が明るい。こんなに見通しがきくのか。
上野の森に大きな人工的な手が加わったことが明らかだった。
ともかくも、ようやく法隆寺展を見学するのだ。
期待はひとえに「毘沙門天立像」だった。
なのに、思わぬところで感じ入った。
眼を凝らして魅入った「定胤和上像」(高村光雲 作)。
『本当に貴方は木で作られているのですか?』と問いかけてしまう。
そこに確かに「定胤」という人が坐っている、としか見えなかった。
やはり、実際に出かけて観てみないと分からないものなのだな、と思う。
「文欟木厨子」には星形鋲があった。
「百万塔・陀羅尼」の文字はおもちゃのように愛らしく見えた。
幡の鮮やかな赤さに驚き、たどたどしい縫い目に親しみを感じた。
そして「毘沙門天立像」も一見に如かずだった。
これほどに装飾的で繊細だったとは・・・。
ことに、彩色の「赤」は火の色のような不思議な光りをもっていた。
(まるで像の足もとがガラスで作られていて、火の色が透けて見えるかのようだ。)
家に着くとだいぶ疲れていた。
頭に痛みと熱が溜まっているように感じた。
海に出かけた。
4線譜が刻まれた貝