enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

『閑谷集』のなかの「伊豆山」(1)

 図書館の書棚に並ぶ『新編国歌大観』のなかで、これまで手に取ったことがなかった巻を眺めていると、「伊豆山にのぼりて侍りけるに…」という文字が目に飛び込んできた。『閑谷集』というまったく見知らぬ名の私家集だった。その詞書と歌の内容を読むより先に、急いで解題に目を通した。
『閑谷集』は「カンコクシュウ」と読むこと、その作者は「法体の歌人」であること、12世紀末頃に駿河国「おほはた」に住み、北条一族と係りを持った人であることを知った。この『閑谷集』から、平安時代末の“筥荷途”や伊豆山神社について何かしらの情報が得られるかもしれないと期待をもった。
248首をおぼつかない読解力で眺め渡してみて、およそ、次のようなイメージができあがっていった。
 
*時間的には「みやこにすみけるころ」(11812月より以前の時点)から12071119日までの期間にわたること
*空間的には駿河国「おほはた」(11858月以降)を拠点にして、かつて暮らした「みやこ」や「おほはら」(大原)、「おほはら」から移り住んだ加賀国「あはづ」(11812月以降)や但馬国118110月以降)、また上京した際の「おほはら」・「みやこ」をめぐるもの(119410月、120410月など)に及んでいること
*それらの歌群がほぼ時系列をたどるように織り込まれていること
*歌群の内容として、仏教思想にもとづくもの、そのなかでの人間関係…家族(ちち・はは)、「あひしれる人」や「ともだち」・「ひじり」、「たのむ人」・「たのみをかくる人」など…や自然・風物が詠まれていること
 
歌集の構成がシンプルで用語も平易であったため、古文や和歌の素養を持たない私でも、およその大意がつかめるように感じられた。やはり、作者が表出しようとした世界が、出家者としてのかなり限定的な視線にもとづいているからだろうか。