8月最後の日。
夕方、外に出る。熱気のかけらもない。
その空気に心も体も溶けてゆきそうだった。
(それは喘息の吸入薬が効いてきたときの心地よさにも似ている。つまり、うっとりとするほどの心地よさ…。)
こんな日は重い買い物も苦にならない。
小さな八百屋さんの店先で立ち止まる。
その時、私の頭の横を、ゆっくりと羽ばたくクロアゲハの姿が眼に入った。
『大きい…こんなところに…』と思った。
と、店の奥から、大きな叫び声があがった。
ウワ、ウワ、ウワァーというような恐怖の叫びだ。狭い店のなかで、大きな体を跳ね飛ばすように叫んでいる若者の声だった。
「どうしました?」緊張したような店の女性の声が続く。
「蝶が! 蝶が!」
若者の声は恐怖で慄いている。
次の瞬間、店の奥から、先ほどの大きな蝶がフワフワと逃げ出してきた(ように見えた)。
レジに並ぶと、その若者は店の人に謝っていた。律儀な人なのだ。
「すみません。大声で騒いで。」
いるのだ。蝶をこんなにも恐ろしく?、忌まわしく?、感じる人が。
でも…、と思う。たとえば、蝶のどういうところがそんなにも嫌われているのだろう?と。
8月31日の空と月(平塚駅前)