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私の第三十四夜をつづります。

バンテアイ・スレイ②中央祠堂-南塔の女性像

 前回、唐突に”平等院”と比較したバンテアイ・スレイは、ほとんどのクメール寺院と同じように、東向きに建つ。
(そもそも、その”東向き”ということが、日本の浄土教寺院をイメージさせ、平等院の信仰空間を思い起こさせたのかもしれない)。
 
 三重の周壁で囲まれたバンテアイ・スレイは、おもに中央祠堂(中央・北・南の三塔と前殿)、その手前の左右に建つ経堂(北・南の二堂)で構成されている。
 今回まとめた女性像は、その中央祠堂の北塔・南塔の壁面に、左右に並び立つ形(扉をはさんで2名が向きあう形)で彫刻されている。
 また、中央塔の壁面には、衛兵のような男性像が(各2名ずつ計8体)彫刻されている。
(女性像が”デヴァター(女神)”と呼ばれるように、男性像は”ドヴァラパーラ(門衛神)”と呼ばれるようだ)。

 中央祠堂の16体の女性像は、それぞれ個性を持ちながらも、ごく明確な形式で統一されている。

  そのわずかに頭をかしげ、何かに耳を傾けているような表情。
  細かく編み上げられたような髪(頭巾?)、そして花飾り。

  広く平らな額、しっかりとした輪郭の顎。

  厚い唇の口角に笑みを刻んだ豊かな頬。

  涙袋が刻まれた切れ長のアーモンド・アイ。  
  異様に長く垂れた耳、そして花飾り。

  首に深く刻まれた”三道”。

  肩巾(ひれ)のように掛けられた飾り紐。
  飾り紐をたぐるような太い指先。
  蕾をつけた蓮の小枝を持ちながら下ろされた長い腕。

  太い腕釧や足釧、そし臂釧や胸飾り・腰飾り。

  おへそを覆うように巻かれ、太ももや膝頭・脛が浮き出るほどに薄く織られた腰布。
  軽く捻られた腰と、そのバランスをとるように少し開かれた足元。


 こうしてみると、どこか仏像彫刻に通じてゆくような造形でもある女性像…他の寺院の女性像が、群像のなかの一つ、という印象であるのに対し、バンテアイ・スレイの女性像は個別の存在感を持つように感じられた。

~南塔の女性像(全8体)~
女性像は、東・西・南・北の四面各面に2体ずつ配置されている。
【写真9~16:東面9・10→北面11・12→西面13・14→南面15・16 の反時計回りの順で】

         写真9
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         写真10
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         写真11:
         この南塔北面に立つ女性像の眼も、北塔南面に立つ女性像(前回の写真8)
         の眼に良く似ている…と思う。
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         写真12
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         写真13
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         写真14
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         写真15
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         写真16
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 それにしても、こうした女性像で、首に”三道”が深く刻まれていることの意味は何だろうか。
 ヒンドゥー教寺院であるバンテアイ・スレイが、ごく私的な菩提寺のような存在であったと想定した場合、その造立者の精神世界のなかに、仏教的信仰要素が並存していたためなのではないだろうか?…そんなこともつい妄想してしまうのだけれど。