enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2011-03-26から1日間の記事一覧

01.1.8

市原 多朗/神の恩寵 天の高みへと運ばれる 聖なる輝かしい声 張りつめた空気が 甘やかな波となって 私の全身の皮膜を通り抜け 心臓を収縮させる 一瞬 何かが成就し 熱い血液が私の喉もとからほとばしるのだ このめくるめく一瞬のために 私は生きていた

00.12.29

予定調和としてのプリマ・ドンナ 脳味噌を突き抜けて ほとばしる叫び…… マリーア・カラス! 貴女の キリキリとふりしぼられた声帯の切っ先が 今日も私の心臓を正確に傷つけ 血を流す

00.12.23

自由からの逃走 心はアナァキィ。 とりあえず 丈夫な皮膚の砦が必要だ。 いずれ 気の利いた衣をあつらえてから 逃げ出せばいい。 心はアナァキィ。 それはブヨブヨと 少女達の胸から尻へと 溜まっていくから 人目をひかないよう 早めに社会化しなくてはなら…

00.11.20

庭を横切っていた猫たち 母を訪れていた寡婦たち 通りですれ違った老人たち やがて 彼らを どこにも見かけなくなっていた すべてが いつの日か そんなふうに 消えてゆく 十一月の時雨れる夕刻 ふと そんなふうに

99.10.28

未必の恋 恋心の種子は いつか 空から運ばれた 雨が降り 風が渡り 光と影のうちに その形を編もうとした 貴女は やわらかな葉が 揺れては触れあうさまに 耳を澄ませ どこにもない恋の在処を 確かめようとしている 知らず知らずのうちに 息をひそめて いつか

98.9.3

お母さんと手をつないだ小さな女の子とすれ違った。 「あそこにケムチがいるよ!」 歌うような声と明るい瞳に出遭って 私はたじろいだ。 数歩進むと 小さな毛虫が 苔むした石畳の道を横断していた。確かに。 ふわふわの毛むくじゃらの毛虫よ おまえは そんな…

97.5.8

人と自然と神とが親密だったころ 人びとの荷はもう少し軽かっただろうか 人びとはゆっくりと老いていっただろうか あゝ 嵐をふくむ南風よ 鉛色の美しい夕空よ 私のメランコリを天高く かつてあった場所へと 連れ去ってはくれまいか

96.10.3

Nostos Algos 秋の光が 一瞬 私をとおりぬけ さびしい形をした魂だけが 透きとおった風にさらされた こんなとき 光のような 風のような たとえようのないところへ かえってゆきたいと希うのだ