enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2013.4.16

 先日、大磯丘陵から遠く垣間見た海は青い帯のように明るかった。なのに、なぜか儚い印象を受けた。
 おそらく万葉集の時代の人々には身近な感情だったのではと想像する。どこか個人的なものとは別の、誰かと共有する感傷のように感じるのだ。
 急に青い帯のような海が懐かしくなり、海まで散歩に出かける。 
 眼の前の青い海から大磯の灯台、大磯丘陵へと眺め渡すと、わけもなく心がうめくように騒いだ。
 あの緑の山の中から、今日もこの相模灘を眺めている人がいるように感じた。
 波の音が聞きたくなって砂丘をおりる。
 波打ち際にはさまざまな漂着物のかたまりが連なっていた。
 時々波に洗われている人工物の漂着物のなかに、巻貝らしき形のものを見つける。
 近づくと、今まで見たことのない大きさの巻貝だった。
 手に取ると半分ほどに欠けていた。片手でやっとの大きさだ。磁器のように緻密でなめらかで薄い手触り。しかも軽い。白と茶色の紐を撚って巻き上げたような色と形。裏側はラスタ―彩の輝きを放っている。とてもきれいで心が躍った。波で洗ってみる。巻貝拾いに夢中な知人も、きっと、こんなふうに風と波の贈り物に出遭ったのだ。
 大事に家に持ち帰って眺めつすがめつし、名前を調べてみる。同じような貝は見つからなかった。夕方になって、貝に詳しい友人に海辺で撮った写真をメールで送ってみた。
 今朝には返事が届いていた。「ヤツシロガイ」ではないかと書かれていた。貝の名前が分かり、いっそう貝が親しいものになった。いつか巻貝拾いに夢中な彼女にも見てもらおうと思う。 
 
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