古い博物館の建物全体が水面に浮かんでいるかのように、足元の床が前後左右に流動した。
余震の続くなか、家に帰ろうとして交差点で立ちどまり、空を見やった。
電線が縄跳びの縄のように跳ね踊っていた。
いつもの見慣れた風景は、音が消えたような遠い世界に変わっていた。
それから一週間ほどたった日の真夜中、暗い台所の窓から、異様に輝く隣家の屋根を見た。
それは月の光で白銀色に照りはえていた。
雪が積もったように、しんとした世界が顕れていた。
5年前に私が経験した忘れようのない揺れも震度5弱だった。
昨夜の震度7の揺れというものを想像できない。そのすさまじさとはどれほどだろう …。
今夕、あの日の揺れを思い出し、交差点で空を見上げた。
中空に白い月が浮かび、そのふくらみかけた月影を、東から飛来した銀色の飛行機がゆっくり横切っていった。
飛行機が向かう西空のずっと先に、不安な人々が見上げる夕空があるのだ。
苦手な虫…でも、ちゃんと生きている小さな生命。とりとめのない私より、ちゃんと現実を生きているように思える。