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私の第三十四夜をつづります。

世を欺く人を一晩で紫色に染め上げよ。

f:id:vgeruda:20201030103800j:plain近づく月と火星(10月29日 17:24)
この夜のTVでは、日本学術会議の任命問題を取り上げた番組が流れた。
2020年10月…この任命問題の報道に接してきたなかで初めて、報道姿勢の鮮明さ、注意深さというものを感じ取った番組だった。
インタビューを受ける人間の生身の身体から発信される情報は”誤魔化し”が効かない。
顔つき・表情・目の動き、全体の物腰、声のトーン・話す速度・言い回し・言葉の選び方…。
受け手の私たちは、それらから得た情報を自分なりにほぼ正確に分析する。

一方、この番組が流れた時間、夜空では、月と火星がそれぞれの道筋を迷わず進んでいたに違いなかった。

願わくば、これらの天体からの光が、世を欺く権力者たちと彼らに与する人々の頭と体を一晩で紫色に染め上げよ…と妄想した。
そうであれば、10月30日の朝、世の人々は世界の有様が一変していることに驚愕するのだ…あぁ、かの人も、かの人も、その頭と体は紫色…と。

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29日の夕方、買い物に行こうと表に出ると、ヒヨドリの声が響いていた。

西に延びる電線上で、大きく嘴を開き、啼き続ける鳥のシルエットが眼に入った。
カメラを取りに部屋に戻り、再び電線上を見上げる。残念なことに、ヒヨドリはすでに啼くのをやめていた。

もしかすると、夏の間、ベランダの前の樹陰で子育てしていたヒヨドリかもしれなかった。そっと近づきカメラを向ける。2~3度、シャッターを切った。ヒヨドリはじきにくるりと向きを変えて東へと飛び去った。

そのカメラを持ったまま駅に向かう。まだ明るい。
人魚姫の公園に寄ってみると、秋の薔薇が余力をふり絞るように咲いている。健気な一輪の薔薇の姿をファインダで切り取る。

買い物を終え、再び人魚姫の公園の前に戻る。すでに薔薇たちは薄闇色に沈んでしまっていた。

その代わりに、南東の空には十三夜に近い月が明るく浮かび上がっている。その東隣には赤い星。月と火星が今、間近に出逢おうとしているのだった。

夜空に向けて、二つの星の配置を切り取ろうとするけれど、思ったように撮れない。

気がつけば、カメラを下げている同じ肩に掛けたバッグから、3本束ねた長ネギが大きくはみ出していた。

はみ出した長ネギが、私と宇宙の運行との果てしない落差を物語るようだった。どうにも居心地悪そうな長ネギの姿は私そのもの。

道の真ん中で、カメラレンズにキャップをかぶせながら思う。
いつか、月のそばを行き来する星屑になれたなら、この地球上の、私と同じように居心地悪そうな人々を、眼下に懐かしく見つめ返したりするのだろうかと。

 

 

f:id:vgeruda:20201030103706j:plain電線上のヒヨドリ

 

f:id:vgeruda:20201030103722j:plain10月29日の薔薇(人魚姫の公園で)