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私の第三十四夜をつづります。

歌人相模の初瀬参詣:淀川①「大川」を訪ねる


11世紀の歌人相模の初瀬参詣ルートを探る旅は果てしない…一を知ると十の疑問が生まれてくる…。
歌人相模が詠んだ初瀬参詣7首から、そのルートをあれこれ想定してきたが、彼女がとった道筋はかなり独自なもののようだ。
そして、これまで想定してきたルートについて、現時点では、次のようにとらえている。

往路:龍田道ルート【山城国河内国〔龍田道〕大和国】 

帰路:淀川ルート【大和国〔関谷峠または竹内峠〕河内国摂津国〔淀川〕山城国


今回の旅では、近世の淀川利用例を参考にして、旧淀川(現・大川)の「源八渡(げんぱちのわたし)」、「長柄(ながら)」の跡を訪ねてみた。
(旅のおおざっぱな目的の一つは、大阪と京都で「淀川」の流れがどのようなものなのかを、この目で見ることだった。)
これまで、若冲の絵画『乗興舟(じょうきょうしゅう)』を通して思い描いていた淀川は、歌人相模の11世紀前半の旅からはるかに下る18世紀後半の旅ではあるけれど)いかにも船旅に適した流れのようだった。
そして、今回眼にした(21世紀前半の)大川も、ゆったりした船旅の風情を感じさせる流れだった。
(川幅は、桂川宇治川・木津川の3川が合流する現在の上流で300mほど、大川では150mほどだろうか。)

ただ、初瀬参詣の帰路(川船を人力で曳いて遡ることも予想される)に限って淀川を利用するのは、やはり不自然かもしれなかった。
そもそも、往路は徒歩を主として参詣をなしとげて、帰路は天王寺などに寄りながら(物見遊山もかねて?)淀川に出て川船で都まで戻る…というプランを想定したのは、11世紀の人々の祈りの旅として、川船を使う安楽なプランは帰路にのみ許されるのではないか?…と考えたからだった。

しかし、今回の旅を通して、往復ともに淀川を利用するプランも想定できるのでは?と思うようになった。

それは、歌人相模の初瀬参詣7首(104~110)の配列において、最初の「稲荷のしものみやしろ」伏見稲荷大社境外摂社 田中神社)の歌(104)から、唐突に「あとむらといふところ」奈良県安堵町を想定。あるいは大阪府柏原市安堂町の可能性も?)の歌(105)へと、空間的に一気に飛躍するのは、歌人相模が往路も淀川を利用し、そのルート上で詠んだ歌の収録を差し控えたからでは?と想像したからだった。
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《参考①》初瀬参詣7首(104~110)の各推定地間の距離(陸路でのおよその直線距離)

*104東山区⇔ 105奈良県安堵町):約40㎞
 104伏見区⇔ 105大阪府柏原市安堂町):約45㎞
*105奈良県安堵町)⇔ 106天理市二階堂周辺):約3.5㎞
 105大阪府柏原市安堂町)⇔ 106天理市二階堂周辺):約18㎞
*106天理市二階堂周辺)⇔ 107天理市布留町):約5㎞
*107天理市布留町)⇔ 108(天理市楢町):約3.5㎞
*108(天理市楢町) ⇔ 109桜井市初瀬):約16㎞
*109桜井市初瀬)⇔ 110大阪府八尾市竹渕伏見区:約36㎞

◆ちなみに、上記の104は鴨川流域、105~110の推定地は旧大和川の流域に位置する。そして、往復に淀川を利用することで、104と105、110と104が河川を通じてつながった形になる。
なお、105の推定地として「大阪府柏原市安堂町」(…下図の(柏原)の東対岸付近)…
も残した。
初瀬参詣で淀川を利用したならば、「あとむらの里」で(
「安堂町」、「安堵町」いずれの場合でも)宿をとるには、旧大和川を渡河して龍田道に入り、初瀬に向かうことになる。
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《参考②》『enonaiehon』の掲載地図
(2017-06-05 歌人相模の初瀬参詣ルート探訪の続き⑥:「竹渕」、そして四天王寺

【註:この地図では、105の推定地を「安堵町」としている。別案の「安堂町」は図中の(柏原)付近。また、大和川は現在の流路を示している。】
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「源八渡し跡」の碑(北区 大川の河畔で)

 

淀川に流れ込む大川(源八橋から大阪環状線を望む))

 

長柄橋から見る淀川

 

★付記★

大阪市立博物館を出たあと、「源八渡」に向かう前、「摂津国分寺跡」に立ち寄った。公園内に無造作に散在している大きな平らな石が私には礎石のように見えた(たぶん、勘違い…)。
公園を出て、「寺田町駅」への道が分からず、通りすがりの人に尋ねた。一緒に駅方面まで歩きながら、ささやかな会話を楽しんだ。その方も「フェルメール」を観ていた。一人旅の良さは、こうした見知らぬ人と何気ない会話を交わすところにもあるのだ。

摂津国分寺跡の碑(天王寺区 国分公園で)