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私の第三十四夜をつづります。

歌人相模の初瀬参詣ルート探訪①:復習…そして奈良へ

昨夏、歌人相模の初瀬参詣ルートについて、机上であれやこれやと思いめぐらした。
それから1年が経った。
今秋、その想定ルートの一部を歩いてこようと思い立った
まずは、昨夏の妄想記事を読みなおし、抜粋して次の通りにまとめてみた。

(a) 「2015年7月17日  歌人相模の初瀬参詣ルート(2)」の記事のまとめ
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 歌人相模 : 初瀬参詣の連作7首(『相模集全釈』から引用)

    神な月 初瀬に詣づるに、稲荷の しものやしろにて みてぐら奉る
104 ことさらに 祈りをらむ 稲荷山 けふは絶えせぬ 杉と見るらむ
 
    あとむら といふ所に宿りて、鹿鳴く
105 鹿のねに 草のいほりも 露けくて 枕ながるる あとむらの里
 
    すがたの池にて
106 行く人の すがたの池の 影見れば 浅きぞ そこの しるしなりける
 
    良因といふ寺にて、ふるの社のもみぢを見る
107 よしみねの 寺にきてこそ ちはやぶる ふるの社の もみぢをば見れ
 
    楢の鳥居の前なる木どもに かけたるもの おほかり
108 なにならむ 楢のやしろの榊には ゆふとはみえぬ ものぞおほかる
 
    まで着きて、坊の前に谷ふかく、もみぢおほかるを、「いづくぞ」と問へば、「鍋倉山」といふ
109 春ならで いろもゆばかり こがるるは 鍋倉山の たき木なりけり
 
    竹淵(たかふち)といふ所あり
110 旅人は こぬ日ありとも たかふちの 山のきぎすは のどけからじな

 1041107首のうち、次の6首の歌の場所は、ほぼ比定されている。
*104 「稲荷のしものやしろ」: 伏見稲荷大社伏見区深草
*105 「あとむらといふ所」 :安堵村(生駒郡安堵町)
*106 「すがたの池」    :菅田池(天理市二階堂)
*107 「良因といふ寺」   :良因寺跡(天理市布留町) ←厳島神社付近か
   「ふるの社」      石上神宮天理市布留町)
*108 「楢の鳥居」     :楢神社(天理市楢町)    ←原位置は大和郡山市石川町か
*109 「鍋倉山」      :初瀬山の支峰(桜井市初瀬) ←鍋倉神社付近か
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(b)「2015年7月25日 歌人相模の初瀬参詣ルート(3)」の記事のまとめ
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初瀬参詣7首の配列は路程順であろうとの前提で、105107の配列から、次の迂回的ルートを推定してみた。
【淀川渡河ルート】
山城国河内国経由 → 大和国(約100㎞)
 ・京~稲荷大社(104)~(久我畷)~(大山崎地点で淀川渡河)~(生駒山地西麓沿いを南下)~(津積駅家付近)~(龍田越)~安堵村(105)~菅田池(106)~良因寺(107)~楢神社(108)~鍋倉山(109)/初瀬~竹淵(110)
 〔この路程では、107108の位置関係の逆転や、帰洛途上の歌と思われる「竹淵」(110)の場所はどこか、といった問題はまだ解決できていない。〕

まず往路は、「稲荷山」(104)参詣を経て “久我畷”を南西に進み、淀津を過ぎて山崎津に至り、山崎橋で淀川を渡河したのち、男山西麓~生駒山西麓をまっすぐ南下し、信貴山南麓で龍田道を東に越え、大和川右岸を「あとむら」(105)・「すがたの池」(106)と辿り、「よしみねの寺」・「ふるの社」(107)に参詣して、「鍋倉山」・「(初瀬の)坊」(109)に至る
〔註:往路では「楢のやしろ」(108)に立ち寄らなかったものと解釈する。〕
 
そして復路は、初瀬から往路を逆に辿って「楢のやしろ」(108)に立ち寄り…実際には復路の途中で詠んだ「楢のやしろ」(108)の歌を、歌集としてまとめる際には、往路での106107の歌に続けてまとめて配列したと解釈する…、再び龍田道を西へ戻り、新たに河内国府推定地付近で北西に進路を取り直し、平野川沿いに現・八尾市の「竹淵」(110)四天王寺付近を通って、渡辺津(大渡、熊河岸、大江の岸)で乗船し、淀川を遡上して、山崎津で再び男山西麓の「竹淵」(110)を望む、ということになる。
〔註:この復路では、「竹淵」(110)が、現・八尾市の「竹淵」なのか、現・八幡市(男山西麓)なのかは不明。また、初瀬から河内国府推定地へ向かう最短ルート(これに該当する「葛下斜向道」というものが、11世紀でも使用されていたのかどうかは不明)を採った場合は、「楢のやしろ」(108)は往路で詠んだ歌と解釈することになる…配列が乱れることになるが…。〕
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 昨夏の記事を読み返しながら、わずか1年前に自分で書いた内容ですら、きちんと記憶していない現在の自分に愕然とした。
 頼りない頭となったうえ、足腰も危うくなりつつある今、この妄想記事について、実際に自分の眼と足で確かめてこなくては、と思った。そして9月16日早朝、奈良(大和国)に向かった。