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私の第三十四夜をつづります。

メモ(3):「春」墨書土器のまとめ。

 

真田・北金目遺跡群の「高大長」須恵器墨書土器について、高座郡大領が係わる可能性を思いついてメモ書きしたあと、『当時の高座郡大領が、郡領域を越えて、わざわざ大住郡…余綾郡の可能性も?…での祭祀に係る可能性はあるだろうか?』と自問した(やはり、あり得ないのでは?…と)

で、気を取り直し、次に長年の宿題であった「春」墨書土器について、今できることをやっておこうと思った…妄想は後回しにして…

過去に取り寄せた資料や、「 全国墨書土器・刻書土器、文字瓦 横断検索データベース」明治大学 日本古代学研究所)をもとに、次のような一覧を作った。

 

【個人的 table 】「春」墨書土器一覧〔註〕

〔註〕全国データから限定的に選択した44例の一覧表を作成した。(確実でない墨書や「春日」のような二文字以上の墨書は除外し、確実と思われる「春」一文字の墨書土器を選択した。)

これらの限定的に選択した44例について、現時点で次のようにまとめてみた。
(註:平塚市の出土数が多いことが影響したまとめになっている)

◆年 代◆
*8c代(2例)
9c代(16例)
*10c代(12例)

◆出土遺構◆
井戸(4例)
井戸関連施設(7例)
旧河道(2例)
水場状遺構1例)
*周溝・大溝・雨落ち溝(3例)
*竪穴住居(7例)
掘立柱建物(1例)
*土坑(6例)
*竪穴状遺構(4例)
*灰原・土器溜り(2例)

◆器 形◆
(25例)
*埦(8例)
*皿(3例)
*甕(1例)
*蓋(1例)

◆器 質◆
土師器(24例)
*須恵器(10例)
*灰釉陶器(6例)

◆地 域◆
東山道(9例)
東海道(23例)
北陸道(2例)
畿内(5例)
山陽道(1例)
西海道(4例)

◎「春」墨書土器は東日本(とくに東海道に多い
◎水に係る遺構からの出土が多い
◎9c代の遺構からの出土が大半
平塚市の事例は「下郷編年10期」・10c前半とされ、やや後れるか?)
平城宮跡や鹿の子C遺跡など、国が関与する遺跡からも出土
平塚市・構之内遺跡の「春」朱墨・灰釉陶器3点は、同じ調査区から出土し、全国的にも特殊
平塚市・構之内遺跡の「春」墨書・土師器は、同じ調査区からの最多出土数で、全国的にも特殊

 

【付記】

*鶴田Ⅱ遺跡「春」墨書・灰釉陶器皿平安時代の井戸)
東海道遠江国の事例で達筆。

つくば市中原遺跡「春」刻書・須恵器坏(9c中葉の竪穴住居)
東海道常陸国‐河内郡の付属寺院とされる九重廃寺跡に隣接。

平城宮跡「春」墨書・土師器皿(雨落ち溝)と土師器埦(不明遺構)
東院の西側に溝(SD3410)が二条大路まで南北に走っているが、その溝の南端付近から「春」墨書・土師器皿(第32次補足調査)が、北半部付近から「春」墨書・土師器埦(第104次調査)が出土。
なお、SD3410の北端付近から皇朝十二銭(第154次調査「和同開珎」・「万年通宝」・「神功開宝」)、中央付近から「相模国右▢」墨書・土師器埦A(第29次調査、他)が出土。

 

まだ途上のメモ書きではあるけれど、長く等閑視してきた宿題にようやく手をつけることができたようで嬉しい。これも、現在進行形の高座郡衙に励まされたからだと思う。
(真田・北金目遺跡群‐水場状遺構出土の「高大長」墨書土器については、須恵器に手慣れた筆さばきで書かれていることに、やはり公的・官衙的な雰囲気を感じてしまう。あきらめずに、これからも現在進行形で妄想してゆきたい。)