enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2012.10.10

 昨日、再び海岸道路の空に赤トンボが群れ飛んでいた。松林の奥のプールが水田の代わりになっているのだろうか。10月になって日没の時間が早くなり、夕焼けにまにあうよう、早足になる。浜辺ではわずかな夕焼けでもうれしい。
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 今日は図書館に出かけた。図書館の手前の公園の木々の下には宮沢賢治さんの言葉を刻んだ石のモニュメントがある。
   「世界がぜんたい
    幸福に
    ならないうちは
    個人の幸福は
    あり得ない」
 初めて、その言葉を読んだとき、ドキッとした。今でも、この場所を通り過ぎるとき、無言の声が発せられているように感じることがある。”…個人の幸福はあり得ない”を”…あなたの幸福はあり得ない”と読み取ったからだと思う。この言葉がどのような文脈のなかで語られたものなのかを知らないが、”個人の幸福”とは、人々のささやかな幸福感のことを言っているのではないのだろう。彼は、人が人として普通に人生を生きることができる世界を強く求めていたのだろうと思う。
 すぐ近くの広場では、噴水のまわりをトラック代わりにして、半ズボンの女の子が走っていた。「いち にぃ さん・・・」と、もう一人の少女が走り込む友達の”タイム”をゆっくり数えている。二人はどちらもとても幸福そうで、その笑い声がモニュメントのある石畳の道まで届いていた。
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 追記:この言葉を含む全体の一文・・・『農民芸術概論綱要』(宮沢賢治)を読んだ。難解ではあるけれど、1926年当時の彼の使命感を強く感じた。抽出された彼の言葉は、彼の世界から少しずつ離れて、読み取る人の世界の言葉へと翻訳されていくのかもしれない。