若い頃に住んでいた家を片付けた際、捨てることができなかった本やレコードを少しだけ持ち帰った。
もう読みなおすこともないし、聴きなおすこともない。でも捨てられなかったものたちが、今も暗い部屋の片隅で眠っている。
その片隅から、古いLPレコードを取り出してみる。
先日、図書館で借りてきた本を読みながら、ジョーン・バエズの歌の歌詞を確かめたくなったのだ。
エドガー・アラン・ポーのその詩は物語の世界とどうつながってゆくのだろう?
物語はどのように展開し、収束してゆくのだろう?
淋しいことに、とうの昔に、言葉が紡ぎ出す物語の世界に没入することができなくなってしまっていた。それでも、この本は、ジャケットの歌詞をたよりに読み終えることができるかもしれなかった。
そして、歌詞を眼にすると、そのまま遠くからジョーン・バエズの歌声が聴こえてくるのだった。レコード・プレイヤーは私の中で眠っているらしかった。
捨てられなかったLPレコードには、音だけが刻まれているのではなかった。ただただ、そんなレコードを聴いていた頃がなつかしいのだった。