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私の第三十四夜をつづります。

緑釉陶器…雑感(5)

林B遺跡第2地点出土緑釉陶器の産地
 
今回、林B遺跡の緑釉陶器を他の緑釉陶器…とくに「猿投窯」と特定されているような資料と比べて見ることで、初めて意識したことがあった。それは (当たり前のことなのだけれど)、同じ陰刻花文でも、それぞれ違いがあるということだった。その違いが、作り手や“ブランド”や用途の違いなのか、技術の時期的変化や嗜好・流行によるものなのか、私には分からない。ただ、林B遺跡の緑釉陶器の線は、他の「猿投窯」とされる製品に比べて“おおらか”に見える。あまりこだわっていない、自由に描いている(彫っている)、そういう印象がある。
思えば、これまで緑釉陶器の産地について、胎土と高台のようすから、京都産でなければ尾張産だろうか? 釉の色が濃いのは別の産地だろうか?といった、曖昧な予想を思い描くだけだった。今回、林B遺跡の緑釉陶器が「猿投窯」と特定されずに「東海系」とされていることにはどのような理由があるのだろう、どこに「猿投窯」と言い切れない要素があるのだろう、と気になった。
ただ、私が感じた違い…その線のタッチのおおらかさが、仮に、精緻な最高級品との差別化を図った製品として東国向けに一括生産された結果ならば、相模国の林B遺跡から大量に出土したことに、一つの説明がつくように思われる。この場合、「猿投産」の可能性も残りそうだけれど、それを確かめるには胎土や製法、釉の仕上がりなど、専門的な視点から見極める眼が必要だろう。素人の私には、そのような視点で林B遺跡出土緑釉陶器の産地を想定することはできないが、素人なりに考える手がかりだけは探していきたいと思っている。
そして、現時点での苦しまぎれの手がかりは、写真で見た「NN278号窯」の素地の埦だ。陰刻花文のタッチが林B遺跡のものと良く似ていた。他の素地の写真を見ると、黒笹14号窯の陰刻花文は明らかに端正・精緻で古風な印象だ。黒笹90号窯の陰刻花文も律儀な線で丁寧に彫られているように見える。それらの高級感のある黒笹窯の製品に比べ、林B遺跡の緑釉陶器は、もう一歩簡略化されていて、それは「NN278号窯」の資料の雰囲気と重なっている。
そこで、名古屋市の地図に、黒笹27号窯・黒笹90号窯・黒笹89号窯・NN278号窯などの地点を落としてみた。「NN278号窯」は扇川左岸に位置し、黒笹地区よりずっと伊勢湾に近い。数百m東上流には熊の前・亀ヶ洞など緑釉陶器窯の地名が連なる。素地を生産して二次焼成し、完成品を河川で輸送するのに便利な位置にあるようにも思える。いつか、「NN278号窯」の緑釉陶器素地を自分の眼で見てみたい。その実物は、林B遺跡の緑釉陶器と似ているのだろうか。