≪歌人相模 ~ 初瀬参詣の連作7首(104~110)≫
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神な月 初瀬に詣づるに、稲荷の しものやしろにて みてぐら奉る
104 ことさらに 祈りをらむ 稲荷山 けふは絶えせぬ 杉と見るらむ
あとむら といふ所に宿りて、鹿鳴く
105 鹿のねに 草のいほりも 露けくて 枕ながるる あとむらの里
すがたの池にて
106 行く人の すがたの池の 影見れば 浅きぞ そこの しるしなりける
良因といふ寺にて、ふるの社のもみぢを見る
107 よしみねの 寺にきてこそ ちはやぶる ふるの社の もみぢをば見れ
楢の鳥居の前なる木どもに かけたるもの おほかり
108 なにならむ 楢のやしろの榊には ゆふとはみえぬ ものぞおほかる
まで着きて、坊の前に谷ふかく、もみぢおほかるを、「いづくぞ」と問へば、「鍋倉山」といふ
109 春ならで いろもゆばかり こがるるは 鍋倉山の たき木なりけり
竹淵(たかふち)といふ所あり
110 旅人は こぬ日ありとも たかふちの 山のきぎすは のどけからじな
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(『相模集全釈』から引用)
104~110の7首のうち、次の6首の歌の場所は、ほぼ比定されている。
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105 「あとむらといふ所」 :安堵村(生駒郡安堵町)
106 「すがたの池」 :菅田池(天理市二階堂)
109 「鍋倉山」 :初瀬山の支峰(桜井市初瀬) ←鍋倉神社付近か
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(『相模集全釈』‣『奈良県の地名』‣『大日本地名辞書』などによる)
今回、まず、これら6か所の位置を、『地図で見る西日本の古代』(平凡社 2009年)の地図などをベースにして落とし込んでみた。次に、当時の一般的ルートも押さえてみた。すると、連作7首の順番と参詣ルートの順路とが、自然な流れで対応していないように思えた。そこで、歌の順序に沿ったルートを考え直してみた。
歌人相模の初瀬参詣ルートについての、現段階の試行(思考)錯誤の結果が、次の拙い略図だ。まだ110の場所が定まらない。また、南から北へ逆戻りするような107と108の流れの矛盾も残っている。もう少し、歌人相模の参詣ルートを追い続けてみようと思う。