enonaiehon

私の第三十四夜をつづります。

2018.5.4

 4月半ばから薬を飲み続けて、身体は少し上向きになった。ただ、よどんだ気持ちからどうにも脱出できない。
 それでも、今日は海に行ってみたいと思った。それだけでも上向きになった気がした。
 朝、ベランダに出た時、夏を飛び越して秋の台風の頃のような風を感じたのだ。
 その遠い記憶とつながる風のせいで、海の風を思い出したのだと思う。

 午後の空は明るかった。ゆっくり歩く。半月かけて持ち直しても呼吸は気まぐれだ。
 海への道…途中の景色が変わっていた。古い家が取り壊され、更地になっている。
 生きながらえていた木々もすっかり切り払われてしまった。
 道行く人の頭上に枝垂れ咲いていた白い花を思い出す。
 家族が去り、家が廃れ、木々が消えてゆく。同じような営みが繰り返される。かすかな痕跡を人々の記憶に残し、それもやがてすべて消えてゆく。

 浜辺に出た。
 強い風と大きな波が運んできた”あらゆるモノ”が渚一面に広がっている。
 大島も富士も姿が無い。風と波の音に全身を浸すだけでいい。よどみが薄くはがれてゆく感覚…いつもそんなふうにして、少しずつ息を吹き返すのだ。

 楽になったよ、軽くなったよ、と海を振り返る。漂着物の間を通り抜け、何度も海を振り返る。

イメージ 1
5月4日の海

イメージ 2
5月4日の風紋

イメージ 3
5月4日の浜辺の花

イメージ 4
5月4日の海岸通りのツバメ