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私の第三十四夜をつづります。

相模集-由無言16 相模国の雪景色

 『相模集全釈』から引用させていただく。
 
 277 あづまやの 軒のたるひを 見わたせば ただ白銀を 葺けるなりけり 
                                    <走湯権現奉納百首 はての冬>
 
 夜半から雪が降り続けて、そのまま明けた朝の実景だろうか。
 この歌では、相模が、都から遠く離れた東国の雪景色を歌っていることを、「あづまやの」の五文字にこめているように感じられる。
 また、眼の前の冬の実景を詠んだ素直な歌のようでありながら、彼女の視点が「軒のたるひ」から、屋根の上の「白銀」の雪に移ることは、やや不自然なようにも思われる。
 なぜなら、相模の真っ先の感動は、「白銀」を葺いたように見える、屋根に積もった雪だったろうと想像するからだ。
 それでも、相模は、その前後逆転したのかもしれない視線の移動を、「見わたせば」の五文字でつないで、「軒のたるひ」と”白銀を葺いた屋根”の実景をなめらかに顕現させている。
 作者の視線、その先の実景が、三十一の文字の連なりによって、現在の私の目の前に具体的な像を結ぶことに、あらためて驚かされる。歌うことができない私は、雪景色を目の前にしても、カメラレンズを向けるだけだ。