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私の第三十四夜をつづります。

2012-01-01から1年間の記事一覧

覚書:「大上」墨書土器3点について

これまでの研究成果に基づく相模国府推定域について、その地理的景観を大まかに捉えると、次のように要約できると思う。 *東西に延び、南から北に連なる砂州・砂丘列が、北・西側は渋田川、東側は相模川に画されること。 *国府域は、西に開く谷川(やがわ…

覚書:国府域東端の古代道(2)

相模国府域を東西に走る古代道の東端は、どこで相模川を渡河するのか。 国府の景観を考える時、常に立ち戻る教科書が『平塚市史11 別編考古(2)』(2003年)だ。 砂州・砂丘列とその凹地、自然堤防などの遺跡の発掘調査報告書をもとに、相模国府域の個々の…

2012.7.9

三日間の七夕祭が終わった。街の七夕祭を最後に見たのは2005年頃だったろうか。 七夕飾りを見て海に向かう人の流れもあるのだろう、昨日の浜辺はいつもより人影が多かった。 波打ち際まで歩くと、水の香り・・・西瓜のような甘い匂いがした。 砂に残された足…

2012.7.7

昨日も今日も夕方に弱い雨が降った。北からの風が涼しい。やはり七夕は旧暦がふさわしいように思う。 気まぐれな天候とは別に 街中でも浜辺でも、地上の織姫・彦星は幸せそうだ。 海からの帰り道、店先に青紫色の大きな花の鉢植えが並べられていた。「アーテ…

2012.7.5

昨夜は2時間ほど眠り、ふと眼が覚めた。曇り硝子の窓から白い光が射し込み、寝床が照らされている。窓をそっと開けると満月だった。薄墨色や濃い鼠色の雲間を縫い泳ぐような月を眺めて寝転がっていた。暫くして、白い光は厚い雲の波のなかにすっかり閉ざされ…

2012.7.2

町の海側で七夕飾りが夕方の風に揺れている。雨に濡れないよう、まだ袋が掛けられていた。桃や林檎の実のようだ。町の七夕祭は私が生まれた年に始まった。子供の頃は、駅も七夕飾りの通りも人の熱気で溢れかえっていたように思う。そして、七夕祭にはたいて…

2012.7.1

湿った季節のなかに入ってゆくと、いつも思い出すアジアの映画がある。『青いパパイヤの香り』だ。 観た映画のほとんどを忘れてしまっているのに、ふとした日常のなかで、それらの映画の断片がよみがえったりする。観終わってなお、心のどこかに痕跡を残す映…

六月の白い花の代わりに

いつからか、六月を特別な季節として感じるようになっていた。亜熱帯めいた湿り気。垣根から漂う濃密な花の匂い。 20代から30代の終わりまで、ひたすら家と会社を往復するだけの日々を繰り返していた。 一年のなかで六月だけは、闇にひたされて融けてゆくよ…

覚書:国府域東端の古代道(1)

24日、相模国府域を探訪したなかで、国府域を貫く古代東海道の現状での最東端にあたるという山王A遺跡第6地点などにも立ち寄った。古代東海道の延長先と推定できる遺構が検出された経緯(道路状遺構そのものは未検出)と、その東延長ルートについて言及があ…

相模国庁域から八幡宮へ

24日、久しぶりに四之宮・八幡の地域を歩いた。これまで数多く訪れた国府域。何回訪れようと、そのたびに、自分の眼が何も観察していない、自分の頭が何事も正確に把握していない、と知ることになる。 ただ、今回の探訪会では、配布資料の新旧地形図を対比し…

内裏相模についての補記

12世紀末の歌合に足跡を残す”内裏相模”とはどういう人なのか・・・その夫は相模守ではなかったか・・・との妄想から、大内惟義の名が浮かんだ。 その後、「大内惟義について」(『鎌倉幕府御家人制度の研究』 田中 稔 吉川弘文館 1991)という論考のなかで、…

海鳴り

眼が覚めると不思議なくらい静かだった。数時間前、吼えるような唸るような風の声を聴きながら眠ったばかりなのに。数年前まで住んでいた家は海から700mほどで、台風の季節には枕元に海鳴りの音が届いた。今、台風の波はどれほど砂丘に迫っているのだろうか…

風が吹くとき

去年3月の原発事故のあと、『風が吹くとき』というアニメーション映画を思い出した。昔、その映画を観たあとも私の無知はそのままだったし、現実に原発事故を経験してさえも、ジリジリと鬱屈をためこむ日々を重ねただけだった。デモも署名も要請葉書も、私の…

ホトトギス

2012.6.15 久しぶりに高麗山の山道を登る。木漏れ日に照らされた下草の緑が色濃く光っている。八俵山の尾根に出ると、尾根道の左右の林からホトトギスの声が響いてきた。梢から梢へ飛び移っているのだろうか。遠くに、近くに、キョッキョ キョカキョキョ と…

もう一人の歌人相模

11世紀の歌人相模の道をあてどなくさ迷うなか、12世紀末(正治2年12月28日)に催された石清水若宮歌合に、”内裏相模”の名前があることを知った。しかもホトトギスを詠んだ歌であることに興味を惹かれた。 あり明に 山ほととぎす 一こゑの なごりをのこす よ…

星の花

10日、仲間と訪れた北鎌倉。初夏の光がさしこむ寺の小道を奥に進むと、石楠花の花が隠れるように咲き残っていた。さらに奥まったところに、山の冷気と水気が伝う切り立った崖面が現れ、その暗い岩肌一面に薄紫の小さな花たちが静かに呼吸している。寺を囲む…

虹色の雲

海からの帰り道、夕方の光が物影を鮮やかにしていた。見上げた西の空に、かすかな虹色の雲が浮かんでいた。 去年の秋、伊勢原の空にあらわれた彩雲は、一緒に見た仲間から”環天頂アーク”というものだと聞いた。古代の人々は、虹色の雲に吉兆のメッセージを読…

覚書:「八幡(やわた)」をめぐって(2)

中世の「八幡」にあった神社(「八幡宮」)に係わる資料として『廻国雑記』という紀行文があることを知った。道興という京都の僧侶が、1486~87年にかけて東国を旅して著したという紀行文のなかで、相模国内の各地についても断片的に触れられていた。 平塚の…

覚書:「八幡(やわた)」をめぐって(1)

5月は『相模集』の世界、11世紀前半以降の相模国府の世界のなかで、うろうろ・もやもやしながら時間が過ぎた。 …12世紀半ばの相模国「旧国府別宮」について、その「(石清水八幡宮の所領)別宮」が成立したのはいつか。その八幡宮の勧請に(前身的な八幡宮と…

走湯と筥根

5月の初旬、初めて歩く比叡山西塔の坂道は、まぶしい緑のなかにあった。森に響きわたる鳥の声に耳を澄ませ、雨上がりの空を見上げると、歌人相模その人の影のようなものが心によぎった。 「ほとゝきす みやまにたかくいのる事 なるときこゆるこゑをきかはや…

2012.5.24

人思う場所がほしくて歩きだす 淡く流れる夕風に溶けてしまえば それだけでいい 見あげれば 空へと歩く道 その道を歩くだけでいい どこにも行き着かなくても

浜辺の形

2012.5.22 子供の頃、あんなに身近だった海、砂浜、そして浜辺のプール。小学生の私の夏休みの記憶は、揺らぐプールの水面の輝きと見上げる空のまぶしい光のなかにある。その浜辺の潮風、波の音から遠ざかって半世紀が過ぎた。再び海に足を向けるようになっ…

平塚海岸の金環日蝕

2012.5.21 5時半には南の空にわずかな水色が見えた。7時前には強い雨音。空は一面鉛色だ。あきらめずに傘をさして海岸へ。 2009年7月、仲間と川辺でカラムシを採っていると、あたりが暗くなった。部分日蝕だと気がついた。あの日から3年近くが過ぎたのだ。 …

少年と海

2012.5.18 お天気雨のあと、海に虹でも出ないだろうかと外に出た。 今日の海は波の声が荒々しい。 砂丘の上のピンクの昼顔の群れをたどってゆく。 少年たちが高い砂丘から眼の前の浜辺に下りようとしている。 海に向かって彼らが下り始めると、直ぐに姿が見…

もう一つの白黒映画

2012.5.17 7日、これから旅に出ようというのに、新緑のメタセコイアの並木道の写真を見ていた。そして、『第三の男』のラストシーンが、なぜいつまでも「かっこいい」のだろうと思った。古い白黒映画のことをあれこれと思い出す。それらの映画のかけらが、今…

「国衙」について

2012.5.15 平塚の地で相模国府について学んできた私にとって、「国衙」の語は親しみが無い。概念の包摂関係としては、”国庁(政庁建物) < 国衙(政庁+官衙) < 国府(地域)”と捉えてきた。 一方で、私だけの勝手な使い分け…”律令国家的な「国庁」から、…

水場遺構と網代・漆塗土器(伊勢原市西富岡・向畑遺跡)

2012.5.12 2月に水場遺構(縄文時代中期~後期)を展望してから3か月。今回は(公財)かながわ考古学財団の現地説明会に参加した。 前回、水場遺構の南端は土嚢で覆われていたが、今回は水場を形作る木組みや流れを堰き止める石組み、その面よりやや高い位…

2012.5.7~10

2012.5.7 大いなる 水を湛えて 眠れる淡海 寝息も浅く さざ波の立つ (大津) 琵琶湖のほとり(大津) 2012.5.8 人魚とも 見まがふ背なもつ みほとけは 湖辺に立ちて なにを待つらむ (高月) 琵琶湖の日没(大津) 2012.5.9 人知れず うなじも細く すみれ棲…

2012.5.7

新緑のメタセコイアの並木道。 しかし、60年ほど前の映画の並木道の季節は冬だ。アリダ・ヴァリは長いコートを着ていなければならない。心を閉ざし、手さえも包み込む。枯葉が散らなければならない。何かが終わり何も始まってはいないのだから。 モノクロの…

2012.4.29

午後、散歩に出かけた。外出するために吸入器を使うのは久しぶりだった。不思議な気持ちだ。今また吸入器を使うようになった自分がなぜかなつかしい。子供の頃、眠れない夜に、握った吸入器をぎりぎりまで使うまいと、椅子に座って過ごした長い時間。その一…